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騙し絵の牙の821のネタバレレビュー・内容・結末

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

正直あんまり期待せずに行ってきたんですけど、想像以上に面白い作品でした。かなり満足度高かったです。
予告編も見ずに、ほとんど前情報を入れずに行ったので、「思ってたのと違った」的なギャップもなく。純粋に楽しめました。

後からよくよく考えると、微妙にツッコミどころがちょいちょい残る作品ではあるんですよね。最初に矢代聖の小説を落とした理由、あまりにもサックリ流されすぎてた気がするし、惟高さんの覇権とかあまり分からないままご帰還で、権力の移譲がすんなり済んでてビックリ。二階堂先生、小説薫風休刊しても大丈夫だったのか?終盤の展開が巻きすぎだったり、作品の中で放ったらかしにされてる要素も結構あったなと。でも、鑑賞中はそんな粗が気にならないくらいの勢いがあって、夢中で鑑賞していました。

展開がどんどん繰り広げられるから内容にツッコんでる暇がないし、とにかく盛りだくさん。テンポが凄ぶる良くて、観客を巻き込む力と魅力が備わっていました。
個人的にはキャスティングがピッタリだったなと思いまして。
まず、松岡茉優ちゃんが本当に上手くて、大好きな小説について語る時の目の輝き。そしていいワインをしこたま飲んだ時の、目の据わりよう(笑) あれ、本当に酔っ払ってました?邦画やドラマで見る酔っぱらいって全然酔っ払ってへんやんって思うことが多いんですけど、あの目は見事でした。
松岡茉優ちゃんの演じる高野さんの、常軌を逸するような真っ直ぐさ、すごく好きでした。文学大好き少女だったんだろうな。出版業界の実状は良く知らないけど、全力で走る編集者、いそう。一緒に働いたらきっと楽しそう。本当に高野さんが大好きでした。(今書きながら愛が溢れている。笑)

大泉洋の飄々っぷりはもちろん、あとは佐藤浩市も良かったです。好き。中盤まで脂乗りまくりで、目がギラギラしていて。タバコの煙を伴って演出と、禁煙の風潮に伴って仕舞われた昭和を感じさせるような古くて華美な灰皿が出てくるあのシーン。ベタだけど、すごく好きでしたね。佐藤浩市の演じる役柄と醸し出す雰囲気にすごく昭和感があって、でも温めてきたプランは見かけ的にもスタイリッシュで先鋭的で。そしてそこから、御曹司の帰還によって急に毒牙が抜かれたようになって。急に老け込んじゃって。あのギャップが堪らなかったです。琴線に響きました。ほんと佐藤浩市良かった。元々好きなのですが、本作の東松さんめっちゃ好きでした。
他にも、池田エライザの「闇抱えてる感」が絶妙だったし、宮沢氷魚の最初の登場シーン、「得体の知れない大物新人作家」感が半端なかったし、塚本晋也の町の本屋の店長さん感とか、國村隼の自分に酔った大先生感とか。それぞれがいい役を演じていたな〜と思いました。最近良く見る佐々木、イン、マイマインの彼とか、本気のしるしの細川先輩とか、いい作品に続いて出てる方も多くいらっしゃって、とても見応えがありました。

あと、妙〜にツボったシーンがいくつか。
汚い話ですが私もいい本屋さん(特に大きい書店)とか図書館に行くと、割と「もよおし」がちなのですが (所謂青木まりこ現象)、それが言及されてて、本好きとしては「分かってるな〜という気持ちになったり。
他にも、亡き伊庭社長の肖像画(そして「K.IBA」の文字)に『ナイブス・アウト』との既視感を抱いたり。
御曹司のデスクがこれ見よがしにMacまみれなのは笑った。アメリカにかぶれてる。
あと、エマ・ストーンの名前出てくるのも、ファンとしては俄かに血が騒ぎました。
松岡茉優ちゃんの衣装(仕事着)が、タータンチェックとかニットとかで「本好き」っぽい感じが出てたのもツボ。
最終的に「小さな書店」を強みにする反撃のアンサーが用意されていたのも好きでした。スッキリと見られた。

とにかく、想像以上に楽しい鑑賞でした。
よくよく考えたら、「業界モノ」「働く社会人」の映画は基本的に大好きなので、ハマらない訳がなかった。また見たいなあ〜。
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