TaichiShiraishi

騙し絵の牙のTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

予告編で言っているような「予測不能な騙し合いバトル」という、一昔前の虚仮威しのコンゲームものみたいなものではなく、エンタメを愛し、本を愛し、仕事と向き合うすべての人にエールをくれる、クレバーかつ熱い映画だった。

そもそもの撮影、編集、音楽、脚本、そして俳優たちの演技、すべてのレベルがずば抜けているので、それだけでずっと見ていられるような作品。個々人の演技はもちろん、個人的には宮沢氷魚と池田エライザのそれまでのイメージを逆手に取った役柄での使い方の上手さに舌を巻いてしまう。そして、松岡茉優の本気で本が好きで、純粋で、しかし油断ならない事実上の主人公・高野の演技は本当に絶品だった。チャーミングさと芯の強さ、そして本への愛を目線やちょっとした表情で表現しており、本当に天才的演技者だと思わされる。

そして、大泉洋のあの人たらし感満載のいつもの佇まいがそのまま油断できない不気味さに満ちている主役・速水像にドハマリ。

彼らが本気で雑誌をよくしよう、本を売ろうとした結果、いくつか騙しが生じるだけで、基本は前向きなお仕事ムービー。特に、吉田大八監督らしい、「実利よりも〇〇が好きという気持ちを優先してしまう人々」という理屈抜きの熱さもしっかり描かれているのがいい。

損得抜きで何かが好きという気持ちを、回りくどいようでストレートに肯定してくれる、静かで熱い傑作。
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