Smoky

ストーンズ オレ!オレ!オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカのSmokyのレビュー・感想・評価

4.4
少し前に、何気なくNetflixのマイリストに入れたまま未観だった1本。キューバの憲法改正のニュースとサー・ミック・ジャガーの体調不良による北米公演延期のニュースが重なったのを機に観たのだけれど…。
なんてこった。物凄い名作じゃないか!個人的にはスコセッシ監督の『シャイン・ア・ライト』を凌駕してると思う。

テーマは『ストーンズと行く南米大陸と文化体験の旅 2016』

チリ、アルゼンチン、ウルグアイ(初)、ブラジル、ペルー(初)、コロンビア、メキシコ、そしてキューバ(初)の8ヶ国。

結成57年。世界中で(可能な場所では)殆ど演奏したと思ってた彼等が、実は南米に3つも未公演国があったことに先ず驚いた。
南米の観客は、老若男女全員がとにかく踊る。「全身で音楽を浴びる」感じが素晴らしい。そして泣く。とにかく感情表現が豊かなのだ。観てるこっちまで貰い泣き。

それぞれの土地で、現地ミュージシャンが民族楽器で演奏するストーンズも最高だ。築山がストーンズで一番好きな曲「悪魔を憐れむ歌」は当初、フォークソングでイマイチな印象だったのが、キースのアイディアでブラジルのサンバを取り入れたところ、誰も聴いたことのない永遠の名曲として誕生したのは有名な話。

1968年にミックとキースがサンパウロの農場に泊まり込んで「ホンキートンク・ウィメン」などの名曲を生んだ話(+卑猥なエピソード)は興味深かった。ブライアンの件もあってバンドがゴタゴタしてた時期だった背景を踏まえるとバンドの転換期になった旅行だったようだ。

一方、独裁政権による統治国が多かった南米ではストーンズの曲は「禁制品」。「聴いたら逮捕されてた」という老人の言葉に驚愕。「音楽は国境を越える」みたいな常套句のレベルではなく、文字通り「彼等の音楽が抑圧された人の心を支えてた」ということ。

ツアー千秋楽であり、国の設立以来初の大規模ロックコンサートであるキューバ公演日にオバマ大統領が来て延期を余儀なくされたり(ストーンズが来るようだが我が国とも親交を深めてほしい)延期した日にローマ教皇が難癖をつけてきたり、いろんな人たちが力を合わせて、いろんな障害を乗り越え、何十年も民衆が待った初めてのライヴで高らかに掻き鳴らされた1曲目が「It’s Only Rock n’ Roll(But I Like It)」って……最高過ぎて涙腺が崩壊した。

これは持論なんだけど、ビートルズとストーンズの違いは「ライヴへのこだわり」だと思う。ライヴを止めてしまった前者はバラバラになって解散し、後者は未だに現役で世界中を巡っている。ライヴはバンドの初期衝動であり創造性の源。

「長く生きたご褒美は、常に学べて新たな発見があること」(キース)
「ドラムの仕事は観客に踊ってもらうこと。私は自分のために演奏しない。一番楽しいのは仲間と一緒に居ること、仲間の演奏のために最善を尽くしている」(チャーリー)

こうした「職人たちの言葉」が語られるのもこの映画の魅力。


……とにかく、ミック、頑張ってくれ!
Smoky

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