松井の天井直撃ホームラン

旅のおわり世界のはじまりの松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

旅のおわり世界のはじまり(2019年製作の映画)
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↓のレビューは、以前のアカウントにて鑑賞直後に投稿したレビューになります。

☆☆☆☆

第1章 自分探しの旅

主人公は(おそらく)無名な旅番組のリポーター。
寝坊してしまい、自力で撮影隊を追い掛けなければならない様な立ち位置にいる。
以後、色々と撮影するも自身の心は満たされない。
映画自体もこの時点では、一体(映画全体で何を表現しようとしているのか?)何を撮ろうとしているのか?は謎だ!
ただ、ぶっきら棒な顔を終始している前田あっちゃんと、適当に撮影している様に見えるカメラマン役の加瀬亮。何かにつけてジャパンマネーをチラつかせては、簡単に事を解決するのを選択する染谷将太等。どうやら全員が、自分自身が今置かれている立場に満足はしていない様に見受けられる。

そんな時に前田のあっちゃんは突如街へと繰り出す。
ちょっとした買い物をはするが、一体何の為に街へ出るのかが分からず。観ていて困惑してしまうのだが、そんな折に前田のあっちゃんは寂しそうな1匹の山羊を見つける。
映画は、見るからにこの1匹の山羊と。前田のあっちゃんを一対の様な存在として見ている様に見える。

「この山羊を解放してあげたい!」

その想いこそは、満たされない毎日にあがき続けている自分に対し。目の前の希望に迎え!と言っているかの様に…。

第2章 歌への渇望

毎度毎度、街へと繰り出す前田のあっちゃん。
まるで迷路の様な街並みをウロチョロウロチョロ。
それでいて、しっかりとホテルには帰れてしまうのが、全く持って意味不明なのだが(笑)
そんなある日。美しい歌声を耳にし、或る劇場へと迷い込む。

実は、前田のあっちゃんの夢は歌手で。歌への渇望が強い。

この時に、舞台で熱唱する前田のあっちゃんと、客席でそれを聴いている前田のあっちゃん。
その導入の入り方。更には(何故だかホテルに戻っている)目が覚めた時の部屋のノックの音。風に揺れるカーテン。揺れる陽だまりの妖しさ。
『岸辺の旅』や『ダゲレオタイプの女』等、近年の黒沢清映画で表現されて来た。単純なホラー映画とは一線を引く、(一般映画なのに)黒沢清流ホラー描写が観ていて楽しい。
ホテルの部屋の中で、意味なくゴロゴラと転がる描写等は。その直前に妖しく光る陽の光と共にこの作品で最高の白眉のシーンでした。何よりもその意味の無さが(^^)

第3章 迷路

進まない(尺が埋まらない)撮影。そんな時に、先日行った劇場の話題が。
その劇場こそ、日本人捕虜が建設時に尽力した劇場だった。
生きて帰れるのか分からないのに…。そんな日本人捕虜の心の奥底と、今置かれている自分の立場の位置を探す日々との比較を…。

…………流石、黒沢清と言うべきなのか?兎にも角にも、そんな美談なんぞは清の心には全然刺さらなかったらしい(´⊙ω⊙`)
だから、前田のあっちゃんは再び街を徘徊し始める。しかも今度は或る意味で表現者として。
それまでは自分を押し殺して来たからホテルに戻れた…のか?今度は表現者になった事で後戻り出来なくなったのか?全く持って清の考える事はなかなか理解出来ん(u_u)
しかし、この時に東京で或る災害が起こり…。

「原発ですか?」

何気なく言った一言。この一言こそ、前作の『散歩する侵略者』に繋がる台詞ではないだろうか?山羊を巡る騒動での、あっちゃんが全速力で走る横移動のカメラワークもやはり『散歩…』を彷彿とさせる。

第4章 エピローグ

映画は半ば強引に大団円を迎えるのだが。

まさかまさかの…。

『サウンド・オブ・ミュージック』とは
ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3
あっちゃんが、ジュリー・アンドリュースになっちゃった〜٩( ᐛ )و

何だかんだと不思議と感動させられてしまったな
〜。
何よりも、そのいい加減さの素晴らしさが全てと言って良い(*´ω`*)
ラストカットの美しさは筆舌に尽くしがたい。
まるでこの1カットの為だけに、それまでに2時間とゆう長〜い時間を掛けて来たみたいに。

まだまだ清は見過ごせん!

2019年6月18日 シネ・リーブル池袋/シアター1