dm10forever

SPL 狼たちの処刑台のdm10foreverのレビュー・感想・評価

SPL 狼たちの処刑台(2017年製作の映画)
3.9
【父と娘】

あれ?意外と重い・・・。
「大好きなトニー・ジャーが出てるし~」くらいの軽い気持ちで借りたんだけど・・・。
実は劇場鑑賞したいと思って色々日程調整していたんだけど、どうしても仕事が忙しくて泣く泣く諦めた1本でした。
その時から「トニー・ジャー」→「超絶ムエタイアクションで敵をバッタバッタと倒す爽快アクション」を期待していたんですね。ただ、確かに劇場で流れる予告では若干期待とは違うテイストも感じつつ・・。それでも最後はトニー・ジャーが敵をバッタバッタ・・・ってならない!?
そもそも主役はトニー・ジャーじゃない!
(この短い文の中で、一体何回トニー・ジャーと言えば気が済むのか?)

―――15歳の少女ウィンチーが、友人に会うために訪れたタイのパタヤで何者かに誘拐される。連絡を受けた香港の警察官である父リー(ルイス・クー)は、自らの手で犯人たちから娘を奪還しようと決意。パタヤ警察のチュイ(ウー・ユエ)に自分も捜査に同行させてほしいと頼む(公式HPより抜粋)。

大まかなあらすじを読んでも分かるように、トニー・ジャーはメインキャストではありません。勿論重要な役ではありますが、あくまでもサブ的なキャラです。
んも~、いけず~。

で、彼が出ているという事は当然「アクションバリバリ」でしょ、と思うのですが、これがまた焦らす(笑)。
決して「全編脳みそ筋肉」な映画ではなく、『「堅物の父親」と「年頃の娘」の二人家族』という紛れもないセンシティブな話から始まり、十分観る側の気持ちを温めます。
そして傷心のウィンチーが父にも言わずにタイを訪れ、そこで偶然事件に巻き込まれてしまうという運の悪さ。
娘の友人からの連絡で事件を知り、お父さんは烈火のごとくタイに駆けつけます。
初動は地元警察のチュイ警部が担当。結果、お父さん(リー)の執念と娘への愛情の深さに心を動かされたチュイは最後まで彼と捜査を続行します。
しかし、裏では彼らの熱をも軽く吹き飛ばすくらいの大きな力が全てを覆い隠そうとしていました・・・。
っていうストーリーなんですが、警察に協力をお願いする割にはグイグイ越権行為を繰り返すお父さん。
中々手がかりがない中、やっと防犯カメラの映像で見つけた怪しい奴を捕まえるために街中で大乱闘。でも敵がただのチンピラだからそんなに強くないし、捕まえてみれば娘の後ろをつけてたのはスカートの中を盗撮する目的だったし。
別な意味でブチ切れるお父さん(笑)そりゃそうだわな。

ただ、やっぱりこの辺から人物の相関図なんかも入り乱れ始め、臓器売買の闇組織だの絶対的権力者だのと黒くて大きな雲が辺りを覆い始める。

タイが舞台という事もあり、画面からも「暑さ」だったりアジア特有の「カオス感」なんかが漂う中で、物語の序盤はじっくりと「状況説明」に重きを置いたような展開で、たっぷりテイクバックを取った後に繰り出すアクションシーンはやっぱり燃える。
燃えるんだけど、最終的に殺すことも厭わないファイトが繰り返されるので、結構過激な描写もある。でも、普通に大の大人が街中で闘ったらそういう結果になるよねという妙な納得感。もちろんカンフーやムエタイなんかは出来ないけど・・・。

で、結構リアルに登場人物が・・・!ってなる。
(何だかんだ言って、奇跡的に復活してラストの大演壇バトルになるんでしょ?)
という淡い期待はあっさり吹き飛ばされる。この辺のリアルテイストは昔のカンフー映画によく見る『正義は無敵』という概念はもう過去の「古き良き~」なんだろうか?
どちらかと言えば「韓国ノワール」のようなヒリヒリしたテイストに近い。
分かりやすく言えば「アシュラ」×「カンフー、ムエタイ」って感じかな。

で、やっぱり着地点もご都合的な展開にはならない。観ている側からすると「そこまでパパを痛めつけないで!」と言いたくなるくらいに「これでもか!」という現実が突きつけられる。

そして対照的にチュイ警部の元にもたらされた新たな命。
リーから、まざまざと「痛いほどの父の気持ちや辛さ」を見せつけられたチュイは、刑事としてではなく「一人の男として」「一人の人間として」そして「一人の父親」として彼の為に戦う。
自分の立場を捨ててでも彼の為に敵のアジトに単身乗り込んでいく様は熱かったですね。

「お父さんと子供(特に娘)」って「お母さんと子供」という関係性とは明らかに違うんですよね。その距離感って言ったほうがいいかな。きっと世のお母さんたちには説明しても理解してもらえないかもしれない。
言葉にするのは凄く難しいんだけど、お父さんと娘の間には
「近づくことも、離れることも出来ない不思議な距離感」が存在するんです。

なんか今作は単なる爽快アクションという部類ではないのかもしれないけど、嫌いじゃないですね。なんかジワジワ来るタイプの作品かも。
dm10forever

dm10forever