にしやん

ピータールー マンチェスターの悲劇/ピータールーの虐殺のにしやんのレビュー・感想・評価

2.8
19世紀初頭のイギリスで起きた多くの死傷者を出し、イギリスの民主主義において大きな転機となった事件「ピータールーの虐殺」の全貌をリアルに描き出し歴史ドラマや。監督はカンヌでパルムドール、ヴェネツィア映画祭で金獅子賞を受賞したイギリスの巨匠マイク・リーの最新作や。

「ピータールーの虐殺」についてはわしも正直知らんかったわ。ナポレオン戦争後、不況のどん底にあったイギリスのマンチェスターで、深刻化する貧困を解決するために、成人男子の選挙権を求めて集会を開いていた約6万人の非武装の民衆に対して、武装した軍隊が突入し多数の死傷者が出る惨事で、実際に起こった民衆弾圧事件やな。イギリス民主主義の始まりでもあり、イギリスの新聞「Guardians」創設のきっかけになったらしいわ。

この映画やけど、一風変わった映画やな。これまでのこの監督の作品は、日常の人間関係をじっくりと描写するもんが多かった印象なんやけど、本作はそういうんが全くあれへん。何がどう変わってるかって、まず主人公というような人がおらへん。これは結構変わってる。確かに中心になるある家族、地元の新聞社の人等、問題の集会の演説リーダーみたいなんはおんねんけど、それらの人物についてこだわってる様子は殆どゼロ。それらの人物を描写しようという気が全くあれへんさかい群像劇とも言われへんわな。

この映画、ほんまなんやろな。まず大きな意味としては、監督のコメントを見るとこの事件はイギリス国内でも殆ど知られてへんということや。監督自身もこの実際事件が起きた広場のすぐ近くに住んでたにも関わらず、この映画を撮るまではこの事件のことを全く知らんかたらしい。どうもこれまでのイギリス政府はこの事件は歴史上の恥部として闇に葬ってたんかもしれん。そうやとしたら、この事件そのものを映画という形で世の中に明らかにするということだけでも相当インパクトがあったんかもしれへんな。

そう考えると、この映画を変わった作りにした理由も何となく分かる。あえて特定の人物を描くというドラマにはせず、実際の役者を使った歴史モニュメンタリーってことにしたかったんかもしれんな。史実に忠実にということかいな。この事件に関わったそれぞれの階層(階級)、困窮する労働者階級と王侯貴族、資本家、治安判事、軍隊等の支配階級をそれぞれを集団として描くということなんやろ。

労働者階級についてやけど、その頃頻発した様々な集会での様々な演説家の演説シーンが執拗に描かれてて、民衆の生活の困窮というのは殆どあれへん。演説シーンについても、演説の内容というよりも、様々な演説者の演説の上手い下手を競い合っている様子を描くといった感じやな。片や支配階級のほうやけど、こっちはひたすら間抜けに描かれている。モニュメンタリーにしては視点が固定的過ぎるな。描き方や捉え方が単調というか一方的というか。どこまで史実を再現しようとしたんかもちょっと微妙な感じやな。

見せ場の事件のシーンについてやけど、このシーンがあんまり上手やない。日本のテレビの年末年始の特番の時代劇レベルやな。悲劇性はそれなりに伝わるんやけど、寄りのカットばっかりで全体としては大変こじんまりとしてるんで、今一つ大事件には見えへんかったわ。この監督、この手のシーンはあんまり得意やないかもしれへんな。

ラストかて、まさかここで終わらへんなというところで終わったわ。ほんまこの映画、いったい何やりたかったんやろ?あえて人物を深堀せず、史実に忠実にやろうとしたんやろけど、いかにも中途半端や。モニュメンタリーに徹底するならちゃんと徹底せなあかんやろ。徹底できずにところどころ人間ドラマ風な描写が垣間見えてしもてるわ。はっきり言うてどっちつかずや。

あえて評価するところがあるとすれば、わし等民衆にとって参政権を獲得するということにどんだけの犠牲が払われてきたかということを、この映画は実感させてくれるということやな。最近のこの国の投票率の低さを考えると、この映画に出てくる、当時イギリスで参政権の獲得のために命を懸けて闘った人等が泣くんとちゃうやろか?映画の出来はもひとつやったけど、そんなことを感じたわ。
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