鰯

バハールの涙の鰯のレビュー・感想・評価

バハールの涙(2018年製作の映画)
4.1
この一歩

クルド人の弁護士バハールは、ある日ISの攻撃により夫を失い、最愛の息子を連れさらわれてしまう。自身も傷つけられた彼女だったが、クルド人女性部隊「太陽の子達」のリーダーとして息子を取り戻すため、銃を手にとる。

何も予習をせず、タイトルとポスターの雰囲気から完全にドキュメンタリーだと思ってました。結局は劇映画だったんですが、色々とニュースで取り上げられる現実と重なるシーンが多くて良かったです。むしろ劇映画だからこそ描ける瞬間に感動して、ぐーっとお腹の中に残る作品でした。

冒頭の粉塵に塗れるバハールは絵画か石像のような美しさ。とんでもないことが起こっているのだけれど、見とれてしまう瞬間がある。主演のゴルシフテ・ファラハニさんは美貌で有名だそうですが、目つきが特徴的な印象でした。銃を構えている時の目がすごい。それでいて、仲間の女性に投げかける眼差しはものすごく優しい。それを両立できるのが不思議

部隊のリーダーとなったバハールを追う中で、徐々に彼女の過去が明らかになっていくことで、「なぜここまでどぎつい目つき」をしているのかわかってくる。残虐なシーンをまざまざと映すでもなく、「悲鳴だけ聞こえる」「何も抵抗できない」といった絶望感に焦点を当てていて、こちらまで心が折れそうになります。
絶望の淵に立たされてから、臨場感が異常な脱出作戦が始まると、もう完全にこちらはただただ応援するだけ。ここもドラマチックではなく、あくまでリアルにリアルに。カッコいいヒーローが現れるでもなく、僅かな希望を信じて、走る・歩く・隠れる。助けてくれたおじさんも優しいだけではないところが本当に良かった。「何とか助かってほしい」という思いでとにかく見守っていました。

回想のクライマックスは自分の脚にも力が入って、一歩一歩にじれったくなったりするなど完全に気持ちが入りきってました。

一方で個人的にフランス人記者の話はいらなかったような気も。もっとばハールに絞ってじっくり見せて欲しかった!!
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