hakuto01234

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話のhakuto01234のレビュー・感想・評価

5.0
一目で強い興味をそそるこのタイトルには、全編見終わった時に振り返って初めて分かる、もう一つの意味があります。
今の日本で、どこよりも寛ぐ自分の部屋で「バナナが食べたい」と願った時に《そんなワガママを言うべきではない》と非難される人はいないでしょう。
なのに、私たちはこのタイトルを初見してごくナチュラルに「何てワガママなヤツなんだこの主人公は!」と感じている。
ここに隠された《自分で買いに行けない障害者のくせに》という偏見がある。
映画を観る前と観た後で、景色が変わる。自分の中に、自覚していなかった壁や痼りがあることに気付かされ、目からボロボロ鱗が落ちる。

鹿野さんの言葉には、サクッと刺さり人を動かす強い力、人を元気付ける明朗な力を持つ名言がたくさんあります。
それしか生きる武器を持たない彼が磨き選んだ、芯を貫く剥き出しの言葉が、力を持たぬ訳がない。

彼の言動に振り回され面倒がり時にカンカンに怒りながら、「しようがねぇなー」と愛しげに迷惑を甘受する身内同然。ボラ仲間の疑似家族の温かさが羨ましい。
迷惑を掛ける/助けてやる、という一方的な貸し借りではなく、そのやりとりが信頼と愛着になっていく。

一片の金銭も利権も介さない、言葉と気持ちだけを見返りに繋がる人と人との純粋な関わりのかけがえなさを見て欲しい。
主人公を「鹿ぴー」と呼ぶベテランボラの子はきっと、視野の広さと優しさを備え持つ大人になるだろう。
首と手しか動かせなくなっても、友達を救うことが出来ると身をもって示す主人公、カッコ良すぎて惚れる。

眩しい夜明け、田中くんの泣き笑いに完全に同期して、爆笑しつつ目から汁が出て止まらない。
ああ、あなた達に会えて良かった。なんて幸せな後味だろう。

1人でも多くの人に見て欲しいし、身近な人と沢山語り合いたいな、と思っています。
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