れい

⼗年 Ten Years Japanのれいのレビュー・感想・評価

⼗年 Ten Years Japan(2018年製作の映画)
4.5
思えば十年前は原発事故や相模原事件が起こるなんて微塵も思わなかった。だから、この映画で描かれた未来が荒唐無稽だとは絶対に思わない。

「PLAN75」で描かれた未来は、安楽死が人口削減の為に国の制度として奨励されている。子供が産まれてもその未来を憂うしかない、救いのない話。専用車両で運ばれる老人達。淡々と作業する看護師達。恐ろしい。こんな未来は間違っている、と思いつつも、自分が認知症になったら家族に辛い思いをさせたくないので安楽死させてほしいと思う自分もいて、観終わってからずっとその矛盾と向き合っている。

「いたずら同盟」
適性に合わせてコントロールされた人生は果たして幸せなのだろうかと思わされる。それを早々と打破してドロップアウトする子供達は、人生で大切なものを自分の力で手に入れる喜びを覚えるのだろう。自由を得た馬が疾走する姿の美しさ。追いかける子供達を見て笑う用務員のおじさんに釣られてこちらも笑顔。

「DATA」
母のデジタル遺産を覗き見した娘が少し大人になる話。近未来を舞台にしているけれど、描かれているのは普遍的なテーマ。杉咲花が愛らしい、優しい作品。

「その空気は見えない」
原発事故による大気汚染で地下で暮らす未来。終始暗く頭が痛くなりそうで、その感覚はきっと映画の中と同じなんだろうと感じる。初めての地上の光の眩しさ、その先にある未来はどのようなものだろう。姿を見せないかえでを思うとやはり希望は見えない。

「美しい国」
ポップな演出で描かれた徴兵制のある未来。デザイナーがポスターに込めた願いは無残に切り捨てられ、どう見ても美しくないポスターに貼り替えられる。ミサイル情報に驚きもせず会話する登場人物達。まるで311後の放射能情報を天気予報のように見ていたことを思い出した。

全体的に、行政が目くじら立てるようなキレ感がもっとあってもいいと思ったが、優しい温かな目線で描かれたことにホッとしてもいる。「PLAN75」は長編化されるとのことで、公開の日を心待ちにしようと思っている。その頃には日本は何か変わっているだろうか。
れい

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