れい

罪の声のれいのネタバレレビュー・内容・結末

罪の声(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

情報量が多い社会派ミステリー映画ながら、言葉で説明されない様々な人間の感情が場面やエピソードから抉り出される。きっとこの人物にはこあいう過去があったのだろう、こういう思いもあったのだろうと自然に思わされる、そしてそれが決して小難しくなくエンタメとして万人に観やすい傑作の映画となっていた。

きっと賞レースは二人の主演俳優のダブルノミネートが話題になるだろう。私は星野源に軍配を上げる。恥ずかしながら彼の演技をちゃんと観るのは初めてで、私には映画の中の曽根俊也が星野源そのものに思えた。優しく細やかな人間の表現。彼が幼い娘を抱いて泣くシーンは、様々な感情を思い起こされて胸が詰まった。娘が「どうしたの?」と聞くのではなく、「いい子いい子」と頭を撫でるだけであるあたり、両親がどのようにこの子を育てているかが伝わってくる。そしてある意味、聡一郎と比較すると俊也の方が不幸なのではと思えるのである。

35年間を壮絶に生きた聡一郎。しかし生き別れの母と再会し、同じ思いで抱き合って泣き、後悔の念を伝えて謝り、「罪の声」で家族の絆を確認した。しかし俊也は、実の母に声を録音された。対峙のときの母の、ハラハラと流す涙の中に沢山の思いを見出すことは出来るけれど、ついに彼女は謝罪の言葉を口にせずに、程なくして永遠の眠りについた。革命の闘士である彼女の信念はその「声」を発することを許すわけがない。俊也の絶望と、自分はそうなるまいとの決意。彼はこれからも、娘を大切に大切に育てていくのだろう。

描かれてはいないけれど、俊也の母は達雄に密かに思いを寄せていた時期もあったと思う。権力に全力で向かう闘争心、行動力。ロングコートの似合う粋な風貌の達雄は心の中は35年前のままイギリスで佇んでいたけれど、時や距離を経ても二人の信念は同じであった。他人から見てどんなに歪んでいても、真っ直ぐに強固な信念を抱く者は危うい魅力に満ちている。私の目に、川口覚と宇崎竜童が演じた曽根龍雄という人物は、許されざる人間ながら、哀愁に満ちた愛しい存在に思えるのである。彼が安らいだヨークの風景が、壮絶に美しく悲しく見える。そこには確実に、若いままの外見の曽根龍雄が立っているのが見えた。
れい

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