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天国でまた会おうのdm10foreverのレビュー・感想・評価

天国でまた会おう(2017年製作の映画)
4.2
【後悔と復讐】

とても不思議な映画。

テーマはとてもリアルでヒリヒリとした痛みを伴うようなものなのに、まるで長い夢を見ているかのようにどこかフワフワとした・・・。
戦争というものをテーマにはしているんだけど、決して「反戦!」という色を前面に押し出しているわけではなく、戦争を通して見えた人間のエゴとかいやらしさみたいなものをシュールに描いた今作。
なんと言っても芸術的なビジュアルはそれだけでも見る価値があるといえるくらい独創的で華やかだった。
もともとはエドゥアールの顔の傷を隠すために造られたマスクだったけど、いつしか様々なマスクが彼の表情や心境を表す重要なアイテムとなっていた。
口の部分だけ動くようになっているマスクがあって、心境によって口の部分を「ヘの字」に曲げてむくれている表情にしてみたり、逆にヘの字をテッペンを下に押し込んで笑っている表情にしてみたり。
発想自体はとても古典的なのに、何故かとても印象に残るシーン。
というか、全体的にマスクが醸し出す表情と、その奥にチラリと見えるエドゥアールの瞳の憂いのコントラストがずっと気になっていて、それがラストで「そうか」と自分なりに納得の出来たあたりでもあり・・・。

―――この物語は一度「死んだ」エドゥアールを中心に、戦争によって人生の歯車が狂ってしまった人々の悲哀を描いた喜劇。

戦争から帰ってきたアルベールは、顔も声も失い、帳簿上「死んだ」エドゥアールと共に隠遁生活をすることになる。
しかし、帰還兵には冷たい世間の中でお金も仕事もない状況は彼を追い詰めていく。
そんな中、「戦没者慰霊碑事業」を利用した詐欺を思いつくエドゥアール。
彼は全てを奪い去った戦争とそれを利用して私腹を肥やしている悪い奴らを憎んでいた。
だから彼らを欺いてお金を奪って何が悪い?と開き直る。
そんな悪いことは出来ない!とアルベールはエドゥアールと喧嘩をしてしまう。
しかし、真っ当な仕事でお金を稼ごうにも、世間は帰還兵には見向きもしないという事に気がついてしまう。
アルベールは戦争が自分から仕事も婚約者も全てを奪ってしまったのだと痛感する。
そこから始まるアルベールの「世間への復讐」。

ここでのエドゥアールの存在というのがちょっと不思議なんですね。
「一度死んだ」という設定が効いていて、声なき叫びを発するエドゥアールが「幽霊」のような存在に感じたんですね。
それはアルベールの心の声というか「天使ちゃんと悪魔ちゃん」みたいな。
ちょっと違うけど「ファウスト」のメフィストフェレス的な。

で、躊躇するアルベールを半ば強引にでも引っ張るんですね。
もちろん、エドゥアールは生きているし悪魔でもない。
彼自身の考え方で行動しているんだけど、それをあのマスクというフィルターを通してみるとちょっと浮世離れしているというか「花火のような儚さ」みたいなものを感じるんです。
今にも消えてしまいそうな。
どこか実在している人間に感じない空虚な部分があって、それは最後まで続くんですね。
最初は「マスクをしているからかな?」とも思ったんだけど・・・。

そして父との確執に対してもエドゥアールとしてではなく、あくまでも他人として感情をぶつけます。

「僕を認めてみろ!」と言わんばかりに。

エドゥアールが迎えるラストは辛いかもしれません。
でも僕は何故か救われた感じを受けました。
彼はマスクをつけた別人格とそして内面に隠していた悲しみ、父の愛を求め続けていた自分の人生に落とし前をつけることが出来たんだなと。
結果的にお父さんの本心、後悔、愛を知ることが出来たのだから。
だから、彼は自分にとっての心の解放を得ることが出来たんじゃないのかな。

「ありがとう。だけど、あなたが愛してくれた息子はもういないんだ」

アルベールとの生活で短いながらも心の底から「生きている」と実感していた。笑って、泣いて、怒って、踊って・・・。
だけど、もう疲れたよ・・。
彼の最後の行動に全てが凝縮されていた。

「天国でまた会おう」

この邦題のセンスは嫌いじゃない。
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