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七つの会議のdm10foreverのレビュー・感想・評価

七つの会議(2018年製作の映画)
3.9
【御前様】

「これでもか!」と言わんばかりの超豪華俳優陣が激熱バトルを繰り広げる、まさに『てんぷらとロースカツのミルフィーユ丼や~』的な一本。
恐らくこの映画を観るかどうかのターニングポイントって「野村萬斎さん」じゃないかな?
これは「のぼうの城」や「花いくさ」の時も感じたのですが、どうしてもあの芝居がかった演技が苦手という方は、もしかしたらこの作品も足が向かないかもね。

お察しのとおり、CMでもバンバン流れているのでご存知と思いますが「あの演技」は健在です。特に序盤はまだ役の人となりなんかも分からないままなので「うわっ」と思うくらい結構強めに出てます。

ただこれがジャニタレばかりのすかした映画なら確実に浮いてしまうところですが、そうならないのはやはり周りを固める役者人の強度だと思います。
「半沢直樹」や「下町ロケット」などでも評判だった、いわゆる「池井戸組」達の作品における安定感が土台にあるため、多少味付けの濃い演技ですら物語のエッセンスとなりうる。この辺のバランスは見事だと思う。
特に香川照之に至っては、まるで「青春キラキラムービー」に広瀬すずや土屋太鳳、山崎賢人や福士壮太を順々に使いまわしているかのごとく、デジャヴのような役まわりにも係らず、それでいてなお新鮮な感じがするのは、安定感と同時に彼の引き出しの多さが成せる業なんだと思う。
そこに及川光博や藤森慎吾などのフレッシュ組みが新たな味付けをするんだけど、岡田浩暉の作り込みはとにかく強烈だった。あのヨレヨレに摩れた感じは中々できないよ。

つい先日観た「空飛ぶタイヤ」と比べると、物語の「テーマ」そのものよりも役者の演技やストーリー展開などに重点が置かれているため、今作の方がエンターテイメント色が強い作品となっている。
扱うテーマ自体が、恐らく誰もが経験しているか若しくは胸に抱いているであろう「日本の企業体質」という、大人にとっては共感を呼びやすいテーマであると同時に、極端にディフォルメされたキャラクターに個性を凝縮させることで善と悪の色をハッキリさせていて、観ている側としては「勧善懲悪」モードに没入しやすくなっています。
ここまで来ると萬斎さんの演技も「ディフォルメされたキャラクター」の一人として見えてくるから不思議です。

物語自体は現実にも十分起こりえる企業犯罪がテーマ。
「結果として起きてしまったミス」と「企業体質が招いたミス」は意味合いが全く違うし、その後のフォローの仕方や、世の中の受け入れ方も変わってくると思う。
特に「企業体質が招いたミス」というものは、最初から当人達が認知していることが多い。分かっているけど突き進むしかない、それが「企業の体質」が原因だとしたら・・・。

社蓄なんて言葉もあるけど、日本では会社に雇われている人間は「会社に従うことが仕事」というイメージすらある。

「会社にとっての常識は社会にとっての常識とは全く違う。」

きっと社会で働く大多数の方が一度は考えたことがあるんじゃないかな。
「白い鳩」でも会社が「あれは黒いカラスだ」と言った途端に「黒いカラス」になる不思議な世界。
ただそれが会社内部の業務上の決め事やルールなら問題はない。しかし、世間に対してその「会社の常識」を押し付けようとすれば、当然歪が出てくる。
今回ちょっと怖いと思ったのは「リコール隠し(隠蔽)」の次の手段として「ヤミ回収」という言葉まで出てきたこと。そうか・・・リコールという言葉を使わずに、点検とかいいながらさりげなく問題箇所の部品を交換してもわからないもんな・・・。
なんともえげつないシステム・・・。

今作では役者のオーバーな演技なんかも相まって若干コミカルな印象も受けがちですが、内容はいたってゴリゴリの「企業ミステリー」ですし、そこに来てテンポがもの凄くいいのでストレスなしに最後まで突っ切ります。突っ込みどころはあるけどね(笑)

ラストで20年前のある出来事をきっかけに歩む道を分けることになった八角と北川が向き合うシーンでは胸が熱くなった。

「20年前のお前のようにアイツの指示を断っていれば今頃は俺も・・・。俺はあんな情けない男に20年間も・・・・」

正解なんてないんだろうな。出世することは悪いことじゃない。むしろ会社では上司の指示を拒むことのほうがあり得ない。八角さんがヒーローのように描かれているだけに、北川さんが背負ってきた20年という時間の重みが最後に吐露されたとき、実は北川さんがそれほど悪い人物ではないとわかる。それは社会一般の常識としてではなく会社の常識として。
社蓄と呼ばれようが何と言われようが、会社という組織で生きるという意味では、事の大小はともかく絶対に付きまとうもの。
ある意味では一番「現実的な」キャラクターだった気がする。

「空飛ぶタイヤ」よりもキャラクターがディフォルメされている分、エンターテイメント色が強い作品でしたが、「企業の中で生きるサラリーマン」にスポットを当てたことで、どこか共感できる方も多かったのではないでしょうか?
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