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真実のマーチのレビュー・感想・評価

真実(2019年製作の映画)
4.0
🍃是枝監督初の仏日合作映画🍂

『万引き家族』の後にどんな作品を作るのかと思っていたら、社会派色の強い前作とは打って変わってこじんまりとした優しい口当たりの作品を持ってきた。

フランスの美しい風景を「庭」を通して切り取った今の季節にピッタリな芸術性の高い作品でありながら、根っこは一貫した監督の作家性を感じさせる家族の物語。

ファーストカットとラストカットの異様な美しさとその構図に是枝監督の卓越した技術力を感じられるので作品にすぐ入り込めるし、音楽の使い方も相変わらず上手い。海外製作になると監督の“色”が薄れてしまうことはよくあるけど、全くそうなっていないのが凄くて、やはり是枝監督は自分の筆致をしっかり自覚しているし、言語が違っても独自のスタイルを確立できているあたり信用できる。フランス映画の趣きがありながら何故か日本映画のような風情があるので嬉しくなってしまうし、どこの国で製作しようが役者や国の雰囲気に飲み込まれることなく“是枝映画”を作れる腕前があることを今作で完全に世界へ知らしめた。

大女優の母親が自伝を出版したことに端を発する家族の「真実」を巡る物語ではあるけれど、そんな表面的なストーリー軸を担保しながらも大事なのはそこじゃないとでも言いたげなほどに随所で登場人物の心の動きを適切に映し出していて、小さな作品なのに良い短編小説を読み終えた後くらいの満足いく読後感がある。今回のような話だとドロドロしてしまいそうなものを至って爽やかで軽やかに描写しているのも良い。

イーサン・ホーク演じるハンクよりもファビエンヌの秘書リュック役のアラン・リボルの方が魅力的に映っているのは少々誤算かもしれないけど、ハンクが目標を達成するまでは断酒を宣言していたのにあることをきっかけにそれを破ってしまう時のホークの演技は茶目っ気たっぷりで微笑ましくて最高。話の核となるファビエンヌ役のカトリーヌ・ドヌーヴとその娘であるリュミエール役のジュリエット・ビノシュは改めて大女優だなと感じるほど“魅せる”演技をしていて、この俳優陣で映画を撮れる、出演したいと思わせる、是枝監督の世界を股にかけた活躍には本当に恐れ入る。

是枝スタイルの子役撮影法が今回も成功していることにも驚くし、演技未経験の子どもをオーディションで選んでいるあたりにも監督のこだわりが感じられる。

劇中劇のあるメタ的な内容だからか、ファビエンヌがカトリーヌ・ドヌーヴそのものに見えてくるし、突然グッとくるダンスシーンやスピリチュアルな話へと軽快に脱線していくのも映画的で面白い。それでいて、要所要所で目を奪われるようなショットをちゃんと拵えてあって、メタ性とそれが同調することでこの映画を観ている観客にもそれが伝わる演出も良かった。

ちょっとしたファンタジーであるような気もするし、『サンセット大通り』のように“演じる”ということに取り憑かれた者の狂気性もあるが、それらを包み込む自然の形成する色彩美に魅了される一作。
本作で独自スタイルの輸出に成功した是枝監督、次作がもう既に楽しみです。
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