りっく

キングのりっくのレビュー・感想・評価

キング(2019年製作の映画)
3.7
父との確執、正反対の兄弟、王の交代による混乱に乗じた陰謀や策略。まさにゴリゴリのシェイクスピア劇だが、終始冷たいトーンと陰影がくっきりした画作りで浮き上がるのはティモシーシャラメ演じるヘンリー五世の孤独や虚無感である。

いざ強国フランスと戦争になるという場面でも本作は盛り上がるどころか、肩透かしを食らわせる。雨が降ってぬかるんだ地面で次々と落馬し、まるでひっくり返った甲虫のように起き上がれず殺されていく甲冑を着た敵陣たち。それがひと段落ついて、大将同士の一騎討ちが始まるかと思いきや、またもや学習能力ゼロの敵の対象があっけなく殺される。

通常のエンターテイメントであれば、圧倒的不利な戦況の中で、雨が降ってぬかるむワンチャンの状況下での逆転ホームランを祈り、最後は大将同士が西部劇のように正々堂々勝負し蹴りをつけるのが筋だろう。だが、本作はヘンリー五世に英雄的な活躍をさせるのを拒み、あるいは厭世的な願望を砕け散らせ、友も参謀も失い、仲間に裏切られた、王冠を被った孤独な青年の孤独を終始見つめ続けている。
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