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ビューティフル・ボーイのHrtのレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
3.5
前妻との息子ニックをいつも気にかけ、愛し見守り続けてきたデヴィッド。
自分とは繋がりのないデヴィッドの現在の妻カレンを受け入れ、その子供たちの善き兄であろうとするニック。
幼いころに本当の母と離れて暮らすようになった少年にしては上手く立ち回っているように映る彼だが、その歪みは少しずつ確実に彼の心にドラッグの入る余地を作り続けていた。

これは珍しいことではないと思う。
そのパーソナリティによるが、親からの期待に応えようと自分の気持ちは後回しに善き振る舞いをしようとする子供は少なくないと思うからだ。
しかしそれは必ず歪みになる。
自分のいる世界を上手く構築できないのだ。
常に他人の目に映る自分を想像してしまう。
恥ずかしい経験を消すためにドラッグをやったとも告白するニックもそういう性格を持っていたはず。
本作が思ったよりずっと身近に感じたのはそのせいだった。
正直観ていてとても辛かった。

偶像と比べて卑小な本性を実感することは地獄だ。
こんなはずじゃないと思いながらも自分であることは決してやめられない。
そんなことは一番身近な親だからこそ打ち明けられない。
あらゆる出口が塞がれる中で彼が出会った唯一輝いて見えたのがドラッグだったというだけのこと。
最初からドラッグが好きなんてことはありえない。

デヴィッドは複数の治療施設に息子の依存具合を相談するが、それぞれ回答は違う。
最初は自分が助け出さなければと思い、職業柄持ち合わせているジャーナリズムで中毒者に取材をしていた。
しかし治療→再発を繰り返すうち次第にそれは不可能だと痛感していく。
電話で助けを求める息子にそれを告げるシーンには心を引き裂かれた。
それでも彼にとってニックは‟ビューティフル・ボーイ”なのだ。
助けてあげられないジレンマを抱えながらも無償の愛を捧ぐデヴィッドこそニックにとって本当の唯一の光だった。

本作には感動的なラストが待っているわけではない。
ドラッグ依存の現実を現実なまま、どこまでもシリアスに表現した上でわずかな救いにカメラを向ける。
大仰な語り口では感じ取れないような豊かな感情を目の当たりにできる作品だ。
この物語に終わりはなく、人生は続いていく。
脱け出すチャンスも持ち合わせていることは実在の人物が今も存命で、しかもドラッグ依存を克服していることが何よりの証明だ。
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