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人生に乾杯!のp99のレビュー・感想・評価

人生に乾杯!(2007年製作の映画)
3.5
「役所」という組織から、低用量の「年金」を打ち込まれたジジイがアセチルコリン全開で犯罪を繰り返す!強盗!拳銃!金!売春婦!警察!カーチェイス!そしてマイワイフ!さあて次の獲物をこの真っ黒な「共産党御用達」カーで狩りに行くぞ!(アセチルコリンとは:副交感神経優位なときに放出されるホルモン、つまりリラックス状態のときにでる。)

ということで、『アドレナリン』とは、ある意味真逆の淡々系老齢犯罪ロードムービーがこの『人生に乾杯!』であった。

主人公のおじいちゃんは年金受給者。でも、国から支払われる年金は少なく、家賃も払えず、遂には差し押さえの役人がやってくる。その役人になんとか帰ってもらうためにおばあちゃんはおじいちゃんとの思い出のピアスを差し出してしまう。

そのことが悔しかったおじいちゃん、共産党の運転手時代の大事な車、「チャイカ」を走らせ、強盗事件を起こす。

驚いたおばあちゃん。でも、思うところあって、彼女も警察を裏切りおじいちゃんの計画に加担してしまう。

「あなたがこんなにもかっこよく見えたのは30年ぶりよ!」

警察もメディアもこの事件には黙ってはいない。(カーチェイスや人々の反応がテレビニュースで報道される演出は『アドレナリン』とそっくりだが、空気感は全然違うので注意してね。)

しかし、無能な警察からおじいちゃんとおばあちゃんが逃げおおせていることと、そのはっちゃけた行動が街の老人を元気づけていることで、市民の中で彼らを擁護する声が大きくなっていく。

この物語には年金受給者の生活苦、警察の無能さ、犯罪者に対する世間の反応といった、世相を皮肉るような場面がかなりある。しかし、これらは問題提起までには達しておらず、ただのノイズで終わっている。

そのような雑音をものともせず、淡々と行動を続けるおじいちゃんとおばあちゃんには、なんだか勇気づけられてしまった。

「やり残したことと言えば、海を見ることぐらいかしら」

おじいちゃんはおばあちゃんを乗せて黒い「チャイカ」を走らせる。
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