りっく

僕はイエス様が嫌いのりっくのレビュー・感想・評価

僕はイエス様が嫌い(2019年製作の映画)
3.5
ひとりの少年の心の揺らぎを丹念に追うことで、ミニマムな視点から世界を描こうとするドキュメンタリーのようなアプローチと、子供たちの生の感情を引き出そうとする距離は是枝裕和に通ずるものがあるかもしれない。

本作は宗教や神といった日本人の大半にとっては馴染みがなく理解し難い題材を扱っているにもかかわらず、作り手には子供という純真無垢な存在をある意味利用して、その抽象的な概念を声高に糾弾しようとする意思は微塵もない姿勢に好感が持てる。

子供たちにとっては毎日が新たな発見であり、そんな刺激的な日常への感受性が豊かだからこそ、未踏の世界を見聞きし対峙することになった時の興奮や喜び、あるいは悲しみや戸惑いに価値と実感が付与されるのだろう。その中に宗教や神、あるいは肉親や親友の死という異質な世界がある。

本作は友人の葬式の際に主人公に弔辞とお祈りという役割を担わせることで、その異質な世界とどのように向き合い、自分の中で距離感を掴み、その先を生きていこうとするかという選択を委ね、物語を収斂させていく慎ましく効果的な構成になっている。冒頭とラストの呼応する構造や、俯瞰で映し出される辺り一面の雪景色も効いている。映画としては地味でミニマムな世界を描いてはいるものの、豊かさや見所はたっぷりの映画。
りっく

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