せんきち

アルキメデスの大戦のせんきちのネタバレレビュー・内容・結末

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

監督が山崎貴なのに面白い!山崎貴に何があったのかと思う程に!




欧米列強との対立を深め孤立していく日本。アメリカとの戦争が叫ばれる中、海軍で最大級の戦艦建造が計画される。「これからの戦争は空母が主流になる。戦艦は時代遅れ」と主張する建造反対派は推進派のずさんな見積もりを叩くべく、数学の天才櫂直(菅田将暉)をスカウトする。少ない時間とシャットアウトされ閲覧できない資料。櫂はどうやって戦艦建造を阻止するのか。



冒頭、大和の壮絶な撃沈から始まる。力作のCGで描写される無残な敗北。どうしてこうなったのか。物語はここから逆算されて進む。







推進派の妨害に負けず資料をかき集める櫂と相棒の田中少尉(柄本佑)。菅田将暉と柄本佑のバディ感が素晴らしい。天才の奇人と凡人との間に芽生える友情。形を変えたホームズとワトソンの話だ。


だから戦争映画であるが、戦闘シーンは冒頭だけ。真の戦闘はクライマックスのプレゼンだ。



長回しで戦艦大和の見積もりの杜撰さを指摘し、その根拠を全て数式で説明していく櫂。菅田将暉はここで黒板で数式を書きながら説明し、推進派の反論をその場で叩き潰す演技をしてるのだ。これは凄い。ワンカットではないが、緊張感は伝わりまくる。これは金払ってみる芝居ですわ。お見事。




とは言え、皆史実を知っている。大和は建造されてしまう。だから本作は主人公櫂が失敗することが確定している。つまり天才がバカに負ける映画なのだなと思ってた。



逆転に次ぐ逆転で決着がついたかと思われた時、推進派の設計者平山(田中泯)が語る大和建造の真相!ここが凄い。以下ネタバレ。






田中泯は菅田将暉にだけ真相を語る。推進派である彼自身も日本がアメリカに絶対勝てないこと、巨大戦艦に全く意味がないことも理解している。では何故?戦艦を作らなくても日本は戦争に突入してしまうからだ。世論は抑えれない。しかも日本は戦争の負け方を知らない。そんな国が戦争を始めたら全滅するまでやめられない。


ならば、日本を象徴する大戦艦が、”大和”と名付けられた戦艦が沈んだなら戦争を諦められるのではないか。”大和”は日本の依代なのだと。



声のでかいバカ揃いの推進派の一員に過ぎないと思われた田中泯はそうではなかった。悪魔だ。




何重にも破綻してるロジックだが田中泯の静かな迫力に押し切られてしまう。それは菅田将暉の中にも田中泯と同じ悪魔がいたからだ。



恐ろしくも見事なクライマックスだが、元ネタはこれではないか?


大和ではなく”特攻の父”大西瀧治郎が特攻の効果が全くないと分かった後でも特攻をやめようとしなかった真相が「特攻という外道の作戦を続けていけば陛下も戦争を諦めてくれるのではないか」という考えがあったという。(角田和夫『修羅の翼 零戦特攻隊員の真情』)



最もひどい事をすれば偉い人達が目覚めてなんとかしてくれるのではなかろうか。この倒錯した無責任体質。何とも日本人的だ。


本作で描かれる大和建造に関する杜撰さ、無責任さはそのまま今の日本に当てはまる。クライマックスの櫂が指摘する大和の欠陥は原発の耐震性能、オリンピックの国立競技場の設計見積もりの杜撰さでも指摘されてた事だ。でも止められない怖さ。


娯楽作であると共に日本的な失敗とは何かというテーマもありでお見事な傑作。



後、冒頭の大和沈没のシーンで一番印象に残ったのが激しい戦闘の中でようやく戦闘機を撃墜するもすぐにパイロットを救助艇が助けていく。これを唖然とみていく日本兵。あー人間のコストを安く見積もるか高く見積もるかの違いが日米の差だったのだなと一発で分かる。


このシーンはキャストの祖父の手記に書いてあったんだって。凄えな!
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