野球は試合に寿命がない不思議なスポーツだ。時間を置き去りにする球技である。
『泣くな赤鬼』は余命半年を宣告されたゴルゴと、かつての指導者・赤鬼が10年の時を経てバッテリーを組む物語。
「大人になったな」というセリフが繰り返されるが、人生で一度でも野球という時間なき時間を過ごした少年は永遠に大人にならない。
父親の愛情と厳しさが欲しかったゴルゴと、その重さを受け止められなかった赤鬼。
病気で年下のゴルゴが赤鬼を見つめ見守る不思議な構図が9回裏まで続く。
高校野球において、ゴールである甲子園で勝ち残るのは1校。高校野球は少年に負けを教え、悔しさを学ばせる先生である。
少年にとって野球が残す爪痕は深い。
それでも傷があるから癒えることができる。傷があるから言えることがある。
一度も背番号をつけなかったゴルゴは、あの夏を許した。
そして、最期に赤鬼に送りバントのサインを贈ったゴルゴは、赤鬼にゲームセットを許さなかった。