現代美術の巨匠とされる芸術家、ゲルハルト・リヒターの半生をモデルにした物語。
ナチ政権下のドイツ。
少年クルトは叔母の影響で芸術に親しむ。しかし叔母は精神バランスを崩し、強制入院の果てに安楽死政策によって亡くなる。
終戦後、クルトは東ドイツの美術学校へ進学しそこで出会ったエリーと恋に落ちるが・・・
クルトの父親の境遇がとても残酷。
ナチに入党しないことで教職の仕事を失い、嫌々ながらも入ったら入ったで戦後はそのことがネックで仕事に就けない。
1日にしてあらゆる価値観がひっくり返る歴史の悲劇に呑まれたのは、ドイツ国民でも例外は無かった。
そして対照的なのが医者としての技量を見込まれてナチ高官に引き立てられたエリーの父親。
上からの命令とはいえ、彼のしたことは科学的根拠の無い国全体の誤った認識によるもの。戦後ナチでの政策が問題となり捕まるも、医者としての矜持と技量がまた彼を助ける。
しかしいくら東ドイツ政府から逃げられても、最愛の娘エリーにしてしまう過ちや、何も知らないクルト(の絵画)によって、強烈な因縁を突きつけられる。
ドイツの歴史を色濃く出した前半と、クルトが自らの芸術に模索する後半。
人は時代と環境に影響され、左右されてしまうけれど、自己表現の限界を突き詰めるクルトの姿とラストシーンの開放感が見事でした。
音楽も映像も、とても美しい作品。