ぐるぐるシュルツ

ROMA/ローマのぐるぐるシュルツのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.8
毎日生きていくことの垢を
毎日あたりまえに落としていく
叩きつける強い波の中で
私は自分の胸に問う

〜〜〜

海老名イオンシネマのTHXスクリーンで鑑賞してきました。
(ちなみに、Netflixでは未鑑賞でした)

もう本当今年1の素敵な作品でした。
高画質・高音質で観たことで、さらに自分の中の世界観に深く刺さってしまいました。

オープニングカットから、グッときます。
なんの味もない幾何学模様の床面に、
水が流れてきて空を反射させた刹那、
飛行機が小さくみえるほどの空の高さ、
泡のテクスチャなどの
情報量の爆発に圧倒されます。
「世界を写し出す」瞬間です。
モノクロなのに、なのか。
モノクロだからこそ、なのか。

主人公クレオの動悸が激しくなるシーンでの真横から追うカットも強烈です。
走り出すクレオ、
でも僕らにはその先が見えない。
だから一層ドキドキしてしまう。

この映画で体感した凄みは
まさにこれらのシーンにあると思っています。
ほぼ固定された、動きの少ないカメラでも、
光やガラスの反射や豊富な自然音、
登場人物の背中とその向こうに広がる景色、
それらによって、
一画面の中に間接的に「多くの視点」を感じることができる。

そうして最後に、
大きな遠くまで広がる空が
直接的に写しだされた瞬間、
それと同時に、
僕自身の中の世界が
写しだされた気分になりました。
僕らは、
日常では一つの視点しか持てないんだけど、
それがこんなにも豊かであったのかと静かに染みていく感じ。
文字通り、世界の見え方が少し変わる感じ。

〜〜〜

家族を持つことと子供を産むことは
同じであるようで異なることです。
夫婦が崩れている大家族の
使用人という立場と
妊娠してしまった私生活との間で
クレオにはその違和感や後悔が
痛烈に感じられていたのではないでしょうか。

無心で波に向かって立ち向かう
あまりにも大きな恐怖や不安の中で、
そして、「家族」を守る一心の中で、
自分の手で本当に「家族」を作りたかったのかどうか
クレオが自問し続けていたのかと思うと、
歯をくいしばるような痛みを感じます。


生きていくことは、
毎日垢や糞を出し、
汚して散らかしていくこと。
でも、それを毎日落としていく。
生きていく「垢」を
静かに丁寧に落として変わっていく。
変化は革命ではなくて、そこに訪れると、そう信じられる映画でした。


Netflix作品としてアカデミー賞三冠を達成したり多くの賞を総なめした異例の映画でもあって、
この二、三年を騒がせた配信映画をめぐる地位や価値観は、今作でひとつ確立されたようですね。

本当に素敵な作品でした。
劇中何度も涙こぼれました。
観てよかった!!