回想シーンでご飯3杯いける

ラストレターの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
3.0
出演者の演技が総じて良かった(ただし庵野秀明は除く)。いつものイケメン・キャラを封印して、ちょっとモサい感じが新鮮な福山雅治、ファンタジックな世界観の中で唯一実体感のある女性像を示した松たか子、新人とは思えない存在感と1人2役をこなす器用さを見せた森七菜、そして何と言っても広瀬すず! この子の凄さを改めて思い知った。彼女も1人2役だったが、その使い分けはより鮮明。母の高校生時代は優等生タイプ、娘役では現代的な軽やかさをプラスして、瓜二つでありながら微妙に違う人物像を見事に表現している。そろそろ女子高生役も無理があるのでは?と思っていたのだが、本作の姿は本当に魅力的だった。

一方で、ストーリーや演出は、1995年の「Love Letter 」のコンセプトを継承する作品とは言え、前作「リップヴァンウィンクルの花嫁」が野心的な作品であっただけに、過去の岩井俊二作品に丸々逆戻りしたようで非常に残念。

中年の小説家が学生時代に想いを寄せていた女性に手紙を出す話で、回想シーンもかなり挿入される。過去に想いを寄せる小説家と、今作に於ける岩井俊二の立ち位置があまりにシンクロしていて、気持ち悪いとまでは言わないけれど、ちょっと怖いあなぁと思ってしまった。ヒモ同然の生活を送る豊川悦司の人物像を「メールの返信が早い」とわざわざ台詞にしてしまうのも、ケータイ世代に対する悪意が滲み出て、まるで老人が書いた脚本のようだ。

で、こうしてレビューを書いていて気付いたのだが、少年時代の恋人に手紙を出したものの、恋人は既に他界していて、身内による成りすましの返事が届くというストーリーは、台湾映画「若葉のころ」(2015年)のほぼパクリじゃないか(あっちはメールで、相手は危篤状態という設定だったけど)。

ノスタルジーは本作で終わらせて、岩井俊二監督にはまた新しいタイプの作品に挑戦して欲しい。