TaichiShiraishi

恐怖の報酬 オリジナル完全版のTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

4.9

このレビューはネタバレを含みます

クルーゾー版も素晴らしいが、本作は鬼畜演出で有名なフリードキンらしく役者も観客も自分も極限状態に追い込むようなシーンの連続で本当に目が離せなかった。

本物の爆発、炎、本物の車、吊り橋、水、ジャングル、現地の空気、画面から匂いと熱が伝わってくるような気迫。全身に異様に力が入る。

セリフではなく絵の力でぐいぐい見せる場面の連続でこれぞまさに映画。クライマックスかと思った吊り橋シーンががまさかの中盤で終わって、そこからは静かながらも物凄い緊張感の巨大倒木をニトロで爆破する場面に突入。

あのシーンはアイデア、演技、編集、撮影までほぼ完ぺきだと思う。どういう計画が言わないまま手順だけ見せて「あ、こういう仕掛けにするのか!」とわかる気持ちよさと、ニトロが爆発するとどれほどの被害があるのかをきっちり見せてくるのでより道のりの困難さがわかる。

ちなみにあの巨木の爆破はフリードキンがヤクザ繋がりのヤバい筋に頼んだらヘリで飛んできてあっという間にやってくれたそうです(笑)。すごいエピソード(笑)。

序盤に出てくるだけのニトロの倉庫を管理してる現地人とか細かい登場人物まで迫真の演技。映画なんだからニトロじゃなくてただの水を触ってるだけなのに本当に今にも爆発するんじゃないかという緊迫感で手を握って歯を食いしばって見ていた。
主要キャストもさすがの演技力だし、エキストラも事故で散らばったお札を取ろうとする警官や、爆発で逃げ惑う人々、爆破犯に怒り狂う群衆、石油事故で黒焦げになった死体を慎重に手渡しで運ぶ村人たち、主人公に銃を突きつけながら帽子を奪ってかぶるテロリストなど細かい演出もあって一人一人実在感がある。道中で主人公たちの車を煽るお調子者や二股路で会うボケ老人など直接話に関係ないちょっとした登場人物もリアルさを増すのに貢献している。主人公たちは人生をかけて命を張っているがその他大勢はそんなこと関係なく暮らしているという当たり前のことをしっかり見せてくれる。

序盤でフランス人の主人公の1人マンゾンの奥さんが「この世に「とある人間」なんていないのよ」というセリフを言うがこれが本作のテーマらしい。

みんな一人一人自分の人生を特別に思って生きている。

でもどんな人間でも平穏に暮らしていても一皮むけば世界は残酷でいつでも地獄に落ちる可能性はある。

それをを全編通してこれでもかと見せつけてくるのがこの映画の最悪で最高なところ。

何の罪もない人々が爆破テロで大量死、昨日まで金持ちライフを満喫していてもちょっとしたほころびで大転落で結婚10周年記念日に逃走する羽目に、強盗に成功しても一瞬の油断で事故って全滅。

ちなみにロイ・シャイダーが襲撃する教会で結婚式が行われてるんだけど、キリスト教の道徳を説かれて幸せな夫婦が誕生しようとしているように見えて、新婦の目元に殴られた跡があるのもゾッとする。明らかにDVを受けている。細かい描写で世の中の残酷さを積み重ねて刷り込むように見せてくるのもうまい。
南米での工事作業でもいつ怪我してもおかしくない劣悪環境だし、人間って脆いな、簡単に死んでしまうんだなと思わせられる。

吊り橋と巨木の爆破という難関を突破しても、ちょっとした気のゆるみのパンクで一瞬で爆発して死んでしまう。それも他愛もない身の上話をしてる最中に。

身もふたもない人生のままならなさ。ニトロを運ぶ道の劣悪さ、車の性能の低さはそのまま主人公たちの人生を象徴しているかのよう。

ラスト付近、急にロイシャイダーの精神世界みたいな描写になる上に、歩きでふらつきながらニトロを運ぶあたりでちょっとリアリティ薄れたけど。

ラストも主人公が踊って少しだけ心に平穏を取り戻そうとしているところに殺し屋がやってくるという非情ぶり。

大好物の映画でした。

あの南米の神様みたいな彫像は何の象徴だろうか。まあ多分災いの神とかだろうな。


40年越しにこの傑作が埋もれることなく公開されたことに大感謝!絶対に劇場で見るべし!
TaichiShiraishi

TaichiShiraishi