ノラネコの呑んで観るシネマ

恐怖の報酬 オリジナル完全版のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

4.8
従来の短縮版は何度か観ているのだが、こりゃ確かに別物だ。
ラストが違うだけでなく、30分ものカット部分が復元されて、なぜ短縮版が原題の「SORCERER」を改題したのかも明確になった。
これはまさに密林の魔力に導かれ、抗えない結末に向かって走る、哀しき男たちの話だったのだ。
短縮版は言うほど悪くはなく、ニトロを運ぶサスペンス映画として普通に面白かったが、今ひとつ突き抜けない印象だった。
完全版は前半1時間以上を費やして、罪を犯し呪われた転落人生に陥った犯罪者たちをじっくり描く。
殺し屋、詐欺師、テロリスト、そして強盗。
南米のジャングルに落ち延びた彼らは、人生を逆転させるために危険な冒険に打って出る。
有名な吊り橋のシーンに代表されるサスペンスフルな演出は、さすがフリードキン。
しかし、冒頭の悪魔を思わせる石のレリーフが示唆するように、全ては運命付けられているのだ。
物語の終盤にロイ・シャイダーは「俺はどこへ行こうとしてるんだ」と呟きながら荒野を彷徨う。
彼の過去の記憶がフラッシュバックする悪夢的シークエンスは、物語の向かう先を暗喩する。
男たちにとっての「恐怖の報酬」は、賞金の小切手ではなく罪の帰結する先としての死だ。
短縮版の時はしきりにクルーゾー版と比較されたようだが、完全版を観ると、クルーゾーへの強いリスペクトは感じるが、そもそも描きたいことが違う。
むしろこれは、冒険活劇版の「エクソシスト」なんじゃなかろうか。
やはり実にフリードキンらしい作家映画だ。
しかし、編集権がなかった故に、別物にされてしまい、40年も観客の元に届かなかったとは。
間違いなく言えるのは、短縮版よりもはるかに優れた映画だと言うこと。