りっく

37セカンズのりっくのレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.5
演技未経験の女の子の魅力が凄まじい。生まれながらにして透明な拘束着を着せられることを課せられ、少女漫画のゴーストライターとして原稿を仕上げる役割としか見なされず、過保護な母親には頼ることを強要される。

障害という不自由さを抱えた肉体。彼女はとびきりの笑顔が印象的だが、笑った顔の隅で引きつっていたりと、内に抱える感情を顔で物語る。その多様な感情を顔というキャンパス上で同時に表現できるのはある種の才能だろう。

キスやセックスの体験がないから、えろ漫画を書いても何か足らない。そんな編集長の言葉は、彼女のこれまでの、そしてこれからの人生を否定されたも同然だ。そんな中で彼女は自分を理解してくれる居場所を見つけ、一人の女性として自立していく。

NHK版ではカットされていた家出後のロードムービー的展開で、本作は東京という抑圧された都市から一気に世界が開けていく。都度挿入される俯瞰ショットは、同じ人間同士にもかかわらず障害の有無で差別する者たちのちっぽけさを浮き彫りにしてみせる。

障害を持った彼女は手助けが必要だ。生活の要所要所で人の手を借り、不自由な身体を他人に抱き抱えられる機会も多い。そしてその行為が介護や同情ゆえのものなのか、それとも愛情の表現なのか敏感に感じ取ることができるだろう。だからこそ、終盤での家族との抱擁に胸を震わせられる。
りっく

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