にしやん

Girl/ガールのにしやんのレビュー・感想・評価

Girl/ガール(2018年製作の映画)
2.8
バレリーナを目指すトランスジェンダーの主人公が、葛藤や苦悩を乗り越えながら夢を追いかける姿を描いたヒューマンドラマや。

この映画、武蔵野館で予告編を結構観せられてんけど、予告編観ただけやったら性の同一性に悩む男の子(?)が、周囲の偏見や差別にもめげずにバレリーナを目指して頑張る姿を描く感動もんかと思うねんけど、なんかだいぶ様子がちゃうかったわ。

まず観始めて感じたことは「これドキュメントなん?」。主人公殆どセリフないし、演技らしい演技をしてる感じも全くせえへん。それにドラマというかストーリーが殆どあれへんしな。朝起きて、学校行ってバレエの練習して、家帰って、時々病院行っての、基本はその日常の繰り返しやもん。「そうか、バレリーナを目指す実際のトランスジェンダーの主人公を追うドキュメンタリーかいな?」ってな。ところがこの主人公のオヤジがどうも芝居っぽく見えるさかい、「ああ、このオヤジは役者やけど、主人公は本人なんかな?」と思て終盤まで観てたわ。

本作はトランスジェンダーで性別適合手術を控えホルモン治療を受けながら、バレリーナを目指す主人公の少女の揺らぎを繊細かつ緻密に描いとる。彼女が性別違和感を抱えていること、自分の身体の男性的な特徴に拒否感を感じていることはよう伝わってくるし、それに自分の思いに反して身体が段々男らしくなっていくことの不安や焦りも、観てるもんも痛いほど感じる。また、その憂さ晴らしをするかのように、ますます自分に厳しくレッスンと練習を課す主人公は、血だらけの足をかばい、骨ばって大きなってしもた足を小さくなったバレエシューズに押し込めてんのや。ああ、観てて辛いわ。

バレエ学校のクラスメイトの女の子達からのプレッシャーも相当きついで。差別や偏見とまでは言えんかもしれんけど、彼女等が好奇な目で主人公を見てるんは確かやな。彼女等の視線は主人公の股間にしかいってへんし。

あと印象的やったんが、主人公がひとりで部屋にいるシーンとか、電車にのっているシーンとか 何気ない日常のシーンで彼女の内面の感情が繊細に表現されてたとこやな。映画は徹底的に主人公の内面にこだわろうとしてた。カメラはひたすら主人公だけを追い続けてる。殆ど主人公のアップを撮り続けてた感じやな。

それがやな、問題のラストや。ネタバレなるさかい言われへんけど、「うわー、そういうこと?なんや、それ。そんなんあり?」って感じでちょっと衝撃的やった。これまで、繊細に緻密に積み上げてきたもんを全部いっぺんにぶっ壊してしもた感じやな。わし、「なんやねんな。この映画はとことん内面に拘るように見せかけて、言いたかったんはこれかいな」って感じで、ちょっとがっかりというか騙されたというか。最初から観せられた100分間は、なんか言い訳みたいに感じてきてしもたわ。

それと、もっとショックやったんは主人公が役者やってこと(そない思たんわしだけかな?)。あのラスト観てやっと主人公が役者やって気ぃ付いて、それも調べてみたらシスジェンダーやと。えー、何それ?そら、男の子やったら、あのバレエ学校では違和感感じるやろし、だいたいからしてトランスジェンダーの芝居やとか、心情を語ったりとか、できるもんやないかもしれんな。せやからワザと大した芝居をさせへんかったりとか、不安で戸惑ってばっかりにさせてたんかな。あの不安と自信のなさは全然ちゃう意味でのもんなんかいな。さては、ひょっとしてこの監督、それ分かっててやってんのかな。

この映画やけど、ほんまのドキュメンタリーやったとしたら、わしはこれはこれでもええと思う。せやけど、フィクションやとしたらどうなんやろな?映画としての衝撃度は置いといたとして、トランスジェンダーというテーマを、結果として身体的な違いの問題に矮小化してしもてるんやとしたら、それはちょっとちゃうんとちゃうかな?映画としての面白さの方向が全く違てると思うわ。主人公の取った選択ってどうなんやろ?LGBTQの人等の意見を聞いてみたいもんや。どやろ?
にしやん

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