TaichiShiraishi

グリーンブックのTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

グリーンブック(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ファレリーの映画がアカデミー賞獲るなんてすごい時代になったもんだが、実は彼と弟(今回は身内の不幸が原因で不参加)はずっと差別は作品の中で扱っていた。

メリーに首ったけでもメリーの弟は知的障碍者だし、愛しのローズマリーでも主人公の友達は半身不随の下衆野郎。

障碍者や有色人種、見た目のよくない人を当たり前のように出して、それが普通でしょと描き、美男美女で漂白しないでみんながハッピーになる映画を撮ってきたのがファレリー。

そして今回とうとう真っ向から差別をテーマに扱った。

結果から言うと今年ベストほぼ確定の大傑作。

ここ数年のアカデミー賞作品の中では一番万人向けなんじゃないか。
最高に楽しくて感動的で恐ろしく良くできたヒューマンドラマコメディ。

まずニックバレロンガが父について書いたこの実話と脚本が素晴らしすぎる。

トニーはなんて素敵な大人なんだろうか。本当は1962年段階では32歳だったらしいけど、それにしても子供がいる年齢になってからこうやって自分の考え方をさらっと変えられる柔軟な人間になりたい。機転も利くし。

あくまでも正反対の男2人の旅を通しての友情と成長を描いたドラマが主軸でその障壁として差別を描いているので押しつけがましさはない。

白人が黒人を救ったり、インテリが貧乏人を引き上げるだけの話になってなくてお互いがお互いに呼応しあって成長していくさまが感動的。トニーは差別や暴力の無意味さを知るし、ドクターは孤独を埋められて黒人としてのアイデンティティとクラシック奏者としての誇りを取り戻す。


差別反対!可哀想!って映画じゃなくて差別をしているやつらが滑稽に見えてくるくらい、主人公2人のキャラクターを愛おしく描いて笑いを届けてくれる。旅の描写もフライドチキンをはじめ本当に楽しい。
酷い差別やウルっと来るようなシーンの直後にも肩透かしのようにギャグを入れてくるので重苦しくウェットにならない。特に“ティッツパーグ”のくだり最高だった(笑)

翡翠石や手紙にまつわるエピソードなど小道具の使い方、伏線も見事。

それから南部のホワイトトラッシュどもの中にもトニーたちを逃してくれるバーの店主や、ドクターの権利を認めて電話を貸してくれる警官など良心的な人をちゃんと登場させているのもいいバランス感覚。

それから冷たい雨の中で警官から差別を受けるシーンと、クリスマスを彩る雪の中で警官からちょっとした心温まる善意を受けるシーンの対比も泣けた。別に泣かそうとしている演出じゃないのに。

オスカー獲ったマハーシャラアリは佇まいからして気品が段違いで姿勢の良さもヤバい。こんな複雑な役こなしちゃうんだからどんどんスターになっていくだろうな。

そしてヴィゴにはオスカーあげたかった。ラミマレック強敵過ぎたか。
ファレリーのキャラ描写の巧さもあるけど序盤のボスの帽子を巡る機転の良さと、家帰ってから牛乳で頭冷やしたりする描写とか、ぶよぶよのお腹晒すあたりでもうこの人好きだわ!ってなるくらい最高の主人公。ガサツな動作しても下品な言葉吐いても嫌にならないヴィゴの品の良さよ。イタリア訛りも見事に習得しててすごい俳優や。

この2人の友情と掛け合い見ているだけでずっと幸せ。トラブルが起きると本気で心配になってしまう。ここまで見事な演技アンサンブルは久しぶり。

でもこんな2人の友情も最初は金銭の関係。トニーが堅気の仕事を欲しがっていたから。

あと、トニーが黒人ほどじゃないけど差別させるイタリア系であることや、ドクターがバレロンガって名前を唯一最初から間違わずに読んでくれたことなどが関係していたのかもしれない。

誰もができるようなことじゃないし、劇中のレイシストたちも改心するわけじゃない。

差別が簡単になくなると能天気に言っている映画にはなっていない。

でもトニーは変わったし、それに何より彼にはドロレスという最高の奥さんがいた。
ラストの「手紙をありがとう」とドクターに言うシーンはギャグとして爆笑できてさわやかな最高の締めくくりだけど、それ以上に彼女に差別意識が全くないことを表している。序盤の捨てたコップを見つけるシーンもそれを表していたけど。
それまでは差別を笑い飛ばす物語だったけど最後のこのギャグだけはドロレスが「黒人にそんな文章書けないでしょ」というような偏見がないから成り立っている。
そんな奥さんがいるだけでトニーは幸せ者だし、彼女が選んだ男ならトニーが最高の人間なのもよくわかるし、そんな彼らと友達になったドクターがこれからは孤独から解放されるんだなとわかる最高のエンディング。笑いながら泣けた。

あくまでミクロな男2人の物語を通してマクロな差別に関する話をあぶり出してくる一作。でも超わかりやすいエンタメで誰が見ても楽しめる奇跡的な映画だった。

でもファレリーは多分アカデミー賞なんて狙ってなかったはず。
試しに少し真面目に映画撮ってみたらアカデミー賞とっちゃったみたいな方の力の抜け具合。

ラストだってもっとウェットにできたはずなんだけどさすがのバランス感覚だった。
今度は下ネタもガンガンに入れたうえでアカデミー賞狙ってみて欲しい(笑)。
TaichiShiraishi

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