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グリーンブックのdm10foreverのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.3
【黒い白鳥と白いカラス】

やっと見れた~。
やっぱり「アカデミー作品賞受賞作品」って、良くも悪くも自分の見方にフィルターを掛けてしまいがちで、ちょっと斜に構えてしまいますよね。

「そう簡単には落ちんぞ!」みたいな(笑)

思えば今回のアカデミー賞って、ちょっといつもと感じが違ったというか、一昨年の「ララランド」や去年の「シェイプ~」「スリービルボード」みたいな、いわゆる最有力ってのがピンとこなくて、その中でも「ROMA」か「グリーンブック」だろうなと思っていたので、まぁ的中と言えば的中かな。
でも今回の予想は今までみたいな「加点予想」ではなく「消去法予想」だったので、若干尻すぼみを感じつつ・・・。
「ボヘミアン~」は興行的には良かったかもしれないけど、ブライアンシンガーのスキャンダルが報じられた時点で作品賞は「無いな」と。
その他「ブラックパンサー」はさすがにトップは取れんだろうし「バイス」もそれほどパンチを感じない。唯一の対抗馬は「女王陛下のお気に入り」くらいかな・・と。
個人的な最大の焦点は「ネット配信映画をどう評価するのか?」でした。それも監督賞がアルフォンソ・キュアロン監督となった時点で「そっちをあげるのね。じゃあ作品賞はあっちだね」とわかってしまったような感じですね。

そんなこんなもありつつ、やっぱり見たいものは見たい!という事で、仕事も一段落ついたのでようやく鑑賞。とはいってもまだ公開から1週間しかたってないんだけどね。

―――物語のベースは白人と黒人の2人が一緒に旅をしながら、徐々に理解しあっていくという「王道ロードムービー」。
二人の生い立ちなど時間のかかる説明を極力排して、それでいて端的にそれぞれの現状を理解させてくれるので、導入からすんなりと入ることができる。

白人(イタリア系移民)ではあるものの、腕っ節の強さと「デタラメ」の上手さだけで家族を養うトニー・(リップ)・バレロンガ。用心棒として働いていたバーも休業してしまい収入は文字通り「その日暮らし」。
そんな時「どこだかのドクターから運転手の仕事の募集が来ているがいってみるか?」との誘い。指定された場所に言ってみると、そこはカーネギーホールの上の階に住む「ドクター・シャーリー」の豪邸だった・・・。

始まりこそ一般的な「白人」「黒人」のイメージの真逆のような設定ではあるが、物語が進むにつれ、それぞれが胸に抱いてきた葛藤や世の中における不満に向き合っていき、お互いの間にあった距離もいつしか理解に変わっていく。

「富裕層の連中は、教養が高いと思われたいから私の音楽を聴きたがる。でも演奏が終われば彼らにとって私はただのニガーだ。なのに黒人からもいわれの無い軽蔑も受けている。白人でもない、黒人でもない、私はいったい何者なんだ!」

彼は必死で受け入れてきた。どんなに高名なピアニストになろうとも、どんなに高級な装飾品に囲まれて豪邸に暮らそうとも、彼は「ニガー」なのだ。
コンサートを開催して欲しいと招待されて行ったはずの高級レストランでは、物置のような控え室を与えられ、トイレは外に設置された簡素な掘っ立て小屋で、皆が食事をするレストランで一緒に食事をすることが許されない「ニガー」なのだ。
北部でコンサートツアーをやれば今回の3倍以上のギャランティが手に入ったであろうにも係らず彼は「ある目的」の為に自ら南部でツアーをまわる事を決意した。

だからドクターは運転手にトニーを指名した。
今回の旅はきっと黒人の自分ではどうにもならない事態が待っていると分かっていたから。
もしかすると腕っ節が必要なくらいのトラブルになる可能性もあったから。
そして家族を守るために、「デタラメ」は言っても絶対に「ウソ」はつかない男と見込んだから。

「グリーンブック」と言うだけあって、ヒスイや車など緑(青緑)が効果的に使われているのが印象的だったが、個人的に最も印象的だったのは逆に「絶対に色で区別できないもの」の力だった。
彼が幼少の頃から訓練してきた「自分を表現するもの」は音楽であり、そこには白人も黒人もない。ただ素晴らしいかどうかだけ。
彼は白人の観客で埋め尽くされたコンサート会場で演奏を終える度にわざとらしいくらいの満面の笑みを向けていた。最初は「万雷の拍手に対する素直な感謝」と思っていたけど、それにしてはちょっとわざとらしいくらいの笑みだなって何度か思った。
あれはきっと彼の精一杯の皮肉だったのかもしれない。
(あなた達は今黒人の私に拍手を送っているんだ)と。

あと、トニーが妻と約束して書いていた手紙の拙い文章に、若干エッセンスを教えるドクター。お陰で手紙を受け取った奥さんは、その文面から「愛」を受け取る。
そこには人種も色も存在せず、「真心」だけがあった。
奥さんは「トニー」からの手紙でありながら「トニーの言葉」ではない事を見抜いていた。
見抜いた上で受け取っていたのだ。
きっとトニーとドクターのやりとりが目に浮かんだんじゃないかな。

どんなに才能を持っていても、どんなにお金を持っていても「黒人」という事だけはどうにも出来なかったドクター。当事の黒人が置かれていた生々しい状況。
バンドのメンバー達と同じホテルに泊まった夜。
ほかのメンバー達(白人)はプールサイドで女性達と談笑していた。それを部屋のベランダから眺めるだけのドクター。そこは同じバンドであっても入っていけない領域だったのだ。だから彼の夜の友達は「カティーサーク1本」。
(一晩で1本は多すぎだろ!?と思ったけど「なるほどね」と納得)
しかし、いざ黒人専用のホテル(安いモーテル)にいっても彼は黒人達の仲間には入れない。「住む世界が違うから」と言わんばかりに。

彼は「どちらでもなかった」のだ。

だからこそ、ラストのバーでの演奏がとびっきりカッコよかったし、誰も彼を特別視しない空間がとても気持ちよくて、それまで閉じ込められていた感情が一気に解放されたような感じでポロポロときました。

ちょっぴり大味というか、黒人問題に関してはステレオタイプな臭いも感じつつ、嫌味な後味が残らないという点では素敵な一作だったと思います。
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