アラサーちゃん

グリーンブックのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
3.5
この映画に見るフランク・キャプラついて。

まずはこの映画は「或る夜の出来事」の友情版といえるんじゃないかな。

どちらが右と言えばどちらかが左と言う、どちらかが赤と言えばどちらかが青と言う。そんな反りの合わないふたりが8週間の旅をともにする。
お互いの価値観に文句をつけ、怒鳴りあい、苛立ちながらしだいにその価値観を受け入れあっていく。最後にはいつしか、右と言っていたほうが左に、左と言っていたほうが右になったりする。
お互いに認めあっていく流れ。モーテルの夜。ウィットに富んだ会話。これはもう、男女のラブコメではないけれど、男同士の友情バージョンを描いた、スクリューボール・コメディですよね。

そして、この映画のラストはクリスマスイブで締められるわけですが、ラストがクリスマスイブの映画ってたいていいい映画になることが決まってます。
そしてやっぱりラストがクリスマスとなると頭に浮かぶのが永遠の名作「素晴らしき哉、人生!」で、やはりこれもまたしかり、孤独と絶望を一身に背負った主人公が、晴れて家族をはじめ周囲のみんなに祝福されてクリスマスを迎えるラストは、なんともあったかい。

だからこそ、最後の最後のラストカットが、トニーとドロレスのキスハグではなく、ドクとドロレスのハグなんですね!(ということに、文章を書きながらふときづく)(この映画でいうジョージ・ベイリーはドクですからね)


印象深いシーンはいくつかあるんですが、とくにフライドチキンのくだりはお気に入り。投げ捨ててキョドって終わりなのかと思ったら、きちんとその先のオチまでつけてくるところが丁寧だしドクの面倒なまでに几帳面な性格が顕れていていいですよね。

そんなドクが、心のなかにずっと圧し殺していたもの。白人にも黒人にもなれないじぶんの存在。白人には蔑まれ、黒人には妬まれる。そんな世界で生きてきた彼は、品位と権力で身を守るしかできなかったんだろうな。
彼の神経質なまでの几帳面さと高圧的な態度には最初からあまりいい気がしてなかったんですが、田舎道で労働を強いられる黒人たちの未知なるものを見るような目にさらされた彼のシーンがあってから、見る目が変わりました。
あのシーンはとてもよかったです。

全体的な流れとしては、ヒヤヒヤするような大きなショックやパニックが起こらないわたしの好きなタイプの流れでした。
でもどうしても好きになれないのが、やっぱり男の子を買っちゃったシーンで、わたしの道徳観念の問題なんですが許せないのです。すみません。でもそのくだりを忘れてしまうくらいにはとてもよかったです。

それにしてもヴィゴ・モーテンセンよすぎたな。よっぽど主演男優賞受賞してほしかった。
デタラメで生きてきたならず者だし、友情にアツい熱血漢だし、手紙もまともにかけないウブ少年だし、フライドチキンにがっつく姿は野生の猿、とっさの機転で好機を作る営業マン、それでいておじいちゃんのように核に迫る発言もするし、見てないようでしっかり周囲を警戒してボスを守る敏腕エージェントでもある。
それはどのシーンも間違いなくひとりの男(ヴィゴ・モーテンセン)なのに、すべての顔を使い分けていて「いったいいくつなの!?」「イケメンなの!?クズなおっさんなの!?」と言いたくなるくらいの百面相怪人でした。すげぇ。