半兵衛

愚なる妻の半兵衛のレビュー・感想・評価

愚なる妻(1921年製作の映画)
3.7
話の面白さよりも、サイレント特有の大袈裟な動きを省きリアルな動きや表情を映画で試みようとする野心的な演出に目が行く。そして舞台となるモンテカルロを本物そっくりにアメリカに作り、膨大なエキストラを使って町の活気を描く異様なこだわりにビビる。それらが成功しているのかどうか微妙なところではあるが、映画で監督が自分の世界を作ろうとする凄まじい狂気(『トラ!トラ!トラ!』の黒澤明、『地獄の黙示録』のコッポラ、『フィツカラルド』のヘルツォークを思わせる)が全編に流れていて戦慄。それとデニス・ホッパー、勝新太郎、萩原健一、三國連太郎など孤高の才能を持つ俳優が陥る狂気と苛立ちも伝わる。

あと監督の視点が性的描写に異様な拘りがあることが印象に残るな、監督でもあり主演をつとめるシュトロハイムがヒロインを見るときのいやらしい目付きは100年後の今でもキモいし、シュトロハイムの従姉妹で彼と関係のある二人が着ている衣装はやりすぎなくらい肌をさらけ出している。シュトロハイムがヒロインの着替えを鏡越しに覗くシーン、寝ているヒロインを見るシュトロハイムの仕事を超えた変態っぷりもかなりのインパクト。今でこそポルノ作品が氾濫しそういう描写もあまり抵抗はなくなったが、100年前だと凄いブーイングを喰らっただろうなと思う。同時にシュトロハイムの才能は早すぎたんだなと感じる、70年代だったらポルノ絡みの大作が作れてエロ描写の才能も思う存分発揮できたのだろうけど。

シュトロハイムのコミカルで不気味な詐欺師の怪演も素晴らしい。
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