こたつむり

幻影師アイゼンハイムのこたつむりのレビュー・感想・評価

幻影師アイゼンハイム(2006年製作の映画)
3.8
★ これは幻術か、それとも現実か
  あるいは全てが虚構の戯曲の中か

愛の物語でした。
邦題は仰々しいですけどね。
主人公である《アイゼンハイム》が貫く純愛に感動したのです。

…というのは本当でしょうか?
何しろ、主演はエドワード・ノートン。庇護を求める眼差しの奥にあるのは一癖も二癖もある素顔。全身の細胞が“役者”の彼ですからね。正解が視えなくて当然なのです。

…というのは本当でしょうか?
何しろ、舞台がウィーンだからこそ成り立つ物語。石畳の上を馬車が闊歩する時代ゆえの幻想。そう。世界はまだ闇に満ちているのです。

…というのは本当でしょうか?
何しろ、万人による正義は存在しない、と大国アメリカが逆説的に証明したように、真実とは自身の中にだけ存在する光。それは現実を模した映画だって変わらない理なのです。

…というのは本当でしょうか?
何しろ、本作の構造はシンプル。登場人物も少ないのです。だから、妄想が入り込む余地も少なく。狂言回しである《警部》の“心変わり”はご都合主義ではないのです。

…というのは本当でしょうか?
何しろ、この文章を書いているのは僕ですからね。常に暗闇で体育座りをしている輩が“正解”など書けるわけがない、そう思われても当然なのです。

まあ、そんなわけで。
知的な物語を探している人にオススメの作品。
…なのですが、手品のタネ探しが無粋なように、整合性という“幻想”に縋ると楽しみが減ると思います。勿論、試行錯誤は楽しみのひとつなので、考えること自体は否定しませんが。

何はともあれ。
あらすじに惹かれたらのならば、情報を遮断して臨むのが吉ですね。

【あらすじ】
幻影師アイゼンハイム。
ウィーンの街に突如現れた奇術師。
彼の演目は他の奇術師とは一線を画していた。
その評を耳にして訪れたのが時の皇太子と公爵令嬢。実は公爵令嬢とアイゼンハイムは若き頃に想いを交わした仲であり、身分の違いによって引き離されていたのだ。
思いがけない再会で激情が甦る二人。それはお互いの身を焦がす危険な炎だった…。
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