KnightsofOdessa

ジョーカーのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
2.5
泣きながらが階段を上り、笑いながら飛び降り、涙を流しながら再び立ち上がる我等のヒーロー。それがジョーカーなのかもしれない。意志のない狂気的で乾いた笑い声が重要なタイミングで木霊することで映画自体は考えたくもない袋小路へ堕ちていくが、知ってか知らずか動き出した体、つまりダンスのような感情の昇華によってある種"救い"があって余計に泣けてくる。

確かに追い詰められた社会的弱者が銃を手にしたことで秘めた暴力性を開花させていくのは極めてアメリカ的で、しかも同時代性を帯びているのかもしれないが、そもそもヒース・レジャーが生み出したジョーカーは"なぜ"が欠落しているからこそ恐ろしいわけで、ジョーカーは元は人間でしたとか言われても"へーそうですか"としか言えないのもまた事実である。まあそもそもジョーカーって善悪の価値観を揺さぶって楽しむ哲学変態だから、そう考えるとホアキンはジョーカーではないのよね。アメコミっていえば企画通るしって感じなんじゃないか。脳に障害が…仕事を失くして…ごみ溜めみたいな…母親が実は…という要素を多分に混ぜ込みながら、それが一点に集約するのも確かに見事ではあるが、往年の名作として映画史に刻み込まれた他のクレイジーな映画たちほど突き抜けたアブなさというのは感じない。あと、脳に障害があるという設定は余計だった。この手の映画で逃げを与えちゃダメなのよ。極めて普通の人間が発狂するべきなのよ。

『モダン・タイムス』のスケートであんだけ笑える上流社会の人間たちの方が狂人だと思うけどね(って先に言われて悔しい)。ラストでしっかり『モダン・タイムス』のラストをパクるのも満点回答だとは思うよ。でも、ホアキンのベストアクトは『ザ・マスター』であって、あまりにも丁寧に人間を解説しすぎた本作品には狂気は宿らなかった。私には『タクシードライバー』があるんで、それで十分です。

追記
冷蔵庫に入るシーンあったけど、冷蔵庫は内側からは開かないから多分妄想。
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