佐藤

ジョーカーの佐藤のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.0
追い詰められた社会的弱者が狂気に堕ちていく救いのない映画。

この作品が居たたまれなくなるような、鬱な気分になるような映画と言われる所以が少し分かった気がします。
それはおそらくジョーカーの行いや暴力は悪であると理解しつつも、一方でそれらを否定してしまったらその暴力の引き金である無意識に弱者から搾取する人間側の立場に自分を立たせることになるからです。
しかし、この映画は明らかに主人公への共感を誘発するように見せています。
社会への不満をどこか主人公に託してしまっている。
このアンビバレントな感情を抱かせる構造が居心地の悪さの正体のように思えます。

人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇である、という言葉があるように、主人公の人生はどこから喜劇になってしまったのか。
自分の人生を遠くから見てしまった瞬間。
そういえば、主人公が笑うときは決まって感情を圧し殺す時だった気がします。

ジョーカーの行動理念は、自分が狂っているのではなく、人はみな狂気を持ち合わせており、それはみんなと同じで、狂っているのは社会の方であることを確かめるようでした。
これはダークナイトでも一貫した態度であることから頷けます。
引き金を引いた主人公が悪なのか、それとも引かせた社会が悪か。

香る港の街ではデモが起き、米の国では銃が乱射され、我が国ではインターネットで顔も分からない相手から言葉で叩かれる。
そんな暴力にさらされ続け、疲弊しきったこの時代の空気を吸っているからこそ感じるものがある映画だと思います。
考えるほどに深みにはまるボディブロー的な余韻があります。
佐藤

佐藤