佐藤

ソウルフル・ワールドの佐藤のレビュー・感想・評価

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
3.7
人生に生きる価値はあるのかをテーマにした完全大人向けの映画です。

簡単なあらすじです。
NYにて音楽の非常勤講師として働く主人公ジョーはジャズミュージシャンとして成功を夢見ています。
母親に定職に就けと言われている最中、有名なバンドに勧誘されます。
ようやく夢が叶うと浮き足立っている主人公、マンホールに落ちて昏睡状態になります。
この急展開、なんの前触れもなく人っていきなり死ぬんだなとリアルな感覚を味わわせてくるあたりいつものピクサーとは違うなといったところです。
そして、生前の魂の本質を見つける世界に迷い込んだ主人公。
生前の魂がこの世に生まれるには、最後にきらめき、sparkleを見つけて許可証を得ないといけません。
そこで22番と呼ばれる魂に蘇るための協力を求めますが、この魂、マザーテレサやモハメドアリ、リンカーンですらきらめきを見つけられなかった問題魂だった…

まず思ったのが舞台設定が面白いということです。
魂の世界は抽象化された色彩も統一された描写なのですが、これは雑多なNYとの対比なのかなと。
次に、主人公は22番に自分の人生のピークを見せますが何も興味を抱かないどころか、人生は無意味だ、生に死の価値はあるのか、と皮肉ります。
もうここで子ども向けではないのは確かです。


以下、物語の重要な展開に触れる内容があります。


さまざまなドタバタ劇を経て、主人公は夢を掴みます。
ここからきらきらした毎日が始まると思いきや何も変わりません。
明日からどうすればとバンドのリーダーに聞くと、今日のように練習をして演奏をして帰るだけと。
ミュージシャンとしての成功が主人公にとっての成功ではないと気付く瞬間です。
一方で、22番は人生の意味に取り憑かれ魂の世界を彷徨っています。
この趣味に意味を求めて義務になるというのはなんとも風刺的です。

ここで主人公はあることを思い出します。
主人公の身体に乗り移った22番がピザを美味しく食べる姿、ストリートミュージシャンに聞き入る姿、紅葉した樹の種子がヒラヒラと舞うのに感動する姿。
主人公はこの日常の風景を生活の一部なだけであって人生の意味ではないと一度否定しますが、ここにこそ人生の美しさがあると悟ります。
この人生の何気ない瞬間こそきらめきだと。
この時点で我々観客も、きらめきとは人生の意味などではなく、世界は美しいと知って魂が生まれる準備が出来たら埋まるものだと思い知らされます。
この日常の刹那的な美しさを即興で音楽を生むジャズと重ねているのはもはや芸術です。

また余談なのですが、英語でcatch 22というスラングがあるようです。
これは矛盾的状況、ジレンマ、身動きのとれない状態を意味するようです。
これを踏まえると、主人公が22番を追いかけるという構図がより深いものに思えてきます。

人生の意味に行き詰まった時、この作品を観ると再び日常のきらめきに気付けるようになる映画です。
配信だけになったのが非常に残念に思えるくらい劇場で観たい一本でした。
佐藤

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