まだ知らぬ者

ジョーカーのまだ知らぬ者のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.5
ジョーカー。それはトランプの世界で最も強い力を持つカード。ジョーカーカードには、社会的弱者が社会的強者を打ち負かすという下克上の直喩が含まれる。

主人公はコメディアンでありながら、社会の底辺として生活する。精神病を患っており、人々から異端児扱いされる。普通の人間と同じようには見られず、嘲弄され、見捨てられた存在として扱われる。周りの人々と自分の間には大きな隔たりがあって、アーサーはその差を埋められないことに大層なもどかしさを感じて、そちらの世界に行こうと必死にもがき苦しむ。

普通の基準からはみ出した人間は社会の隅に追いやられ、除け者扱いされるのが、今日の社会である。そして、その社会的弱者は絶望の波の中で溺れそうになりながらも、社会に対する復讐の機会を虎視眈々と伺っている。自分の感情を押し殺して糊塗するにも限度があり、心の度量がキャパオーバーした時には、他者に危害を加えることで溜飲を下げる。社会に対する嫉妬や憎悪といった感情は多かれ少なかれほとんどの人が、持っているものである。しかし、隣の芝生が青く見える人は上手く感情のバランスを保つことができず、暴挙に出て一線を踏み外してしまう。このような暴走が生まれるのは、個人の問題というよりも、社会が異なる価値観を認めることなく、1つの価値観を絶対視しているからに他ならない。不寛容な社会が、無差別事件の温床なのである。日本が多様化社会に向かっていかない限り、こうした問題は増え続けていくだろう。特に貧富の差が激しい資本主義社会では、尚のことそうである。昨今の無差別事件が端的にそれを証明している。

一見野蛮人染みた狂気として映る彼らだが、本当に狂っているのは、自分を正しい人間であると信じてやまない我々大多数の方なのかもしれない。

価値観を同一視する風潮は、生きづらさを肥大化する。これからは主人公のような人間がどんどん出てくるだろう。そして狂気に満ちた人間は、外見は正常であるように見せかけながらも、案外身近に存在しているのかもしれない。
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