橘宏樹

ジョーカーの橘宏樹のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.6
まず煙草の吸い方の演じ分けがイイ。
貧乏くさく震えてすするタバコと、胸いっぱいの悦びを噛み締めて震えて仰け反りながら飲むタバコ。
指先でピンと弾いて投げ捨てるポーズの何気ないかっこよさ。歌舞伎的な見栄をバッちりキメてる。

本作によってむしろジャックニコルソン版のジョーカーがクラシックとして完成したように思う。いわばバッハ化。本作のジョーカーからナチュラルに繋がる噛み締められる。これでジョーカーは映画界のお題となった。ちなみにヒースレジャーのも充分に重くて非常によかった。


父性のディストピアに背筋をピンと立て完全な自立の雄叫び。満たされぬ想いを抱えこみながら生きていく決意の雄叫び。それがあのぎこちないオリジナルダンスに滲む滲む。

トーマスウェイン役、ロバートデニーロ、
そして絶え間なく流れるフランクシナトラが、強く温かく包容力のある頼もしい憧れの対象すなわち父性を畳み掛けるように表現する。当然これらは全てまずは破壊する。全て得られなかった者の叛逆と目覚めの恍惚。駄々っ子が我慢から解放された瞬間の爽快感の前では、それじゃあ虚しいだけだよとかいう優しい言葉こそが虚しい。

後味が悪い、沈痛さが上映後の会場を包んでいた。みんななんて善良なんだろう。悪の目覚めとその爽快感を知らないんだろうな。feel good!!!!
橘宏樹

橘宏樹