映画ネズミ

ジョーカーの映画ネズミのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.7
向いている人:①『ダークナイト』が好きな人
       ②『アベンジャーズ』シリーズに物足りなさを感じている人
       ③マーティン・スコセッシの映画が好きな人

 もはや、言わずと知れた名作になってしまいましたね。この映画は、公開初日に映画館で見たんですが、今回、満を持して見直してみました。

 DCコミックスの漫画「バットマン」の名物悪役、ジョーカー。アンパンマンでいうところのバイキンマン、ガンダムでいうところのシャア。

 89年のティム・バートン版『バットマン』でジャック・ニコルソンが演じてから、演じるハードルが急上昇しちゃった役です。

 決定的なのは、皆さんご存知『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカー。彼の、文字通り命を懸けた圧倒的名演、そして死。私も当時、映画館で戦慄しました。

 これ以降、ジョーカーという役を映画界の「聖域」扱いになってしまった感があります。

 そして、DCユニバースが残念ながらイマイチな時に、本作の企画が発表されました。ジョーカー役はホアキン・フェニックス。DCユニバースとは関係のない、単独作品になる。これを聞いただけで、タダモノではない映画ができる予感がありました。

 見ました。

 もう、完全にヤラれました。

 冒頭、後にジョーカーとなるアーサーが鏡の前でメイクしている場面だけで、「この映画、何か違うぞ」と思わせてくれます。映画の中で「鏡」が出てくると必ず意味があるのですが、この時点で、アーサーの複雑な内面、引き裂かれそうな内面をさりげなく、でも強烈に示すあの場面で、もうやられました。

 その後、ひょんなことから銃を手に入れ、ひょんなことから殺人に手を染めてしまうアーサー(あの場面、「フレンチ・コネクション」でしたね!)。

 彼が、汚いトイレの中で、不思議な昂揚感に包まれて踊り狂う場面は、本作のハイライトですね。

 ヒドゥル・グドゥナドッティルの手がけた、切なくも気味が悪い、弦楽器を使った音楽が素晴らしいです。

 本作で彼が語ります。「今まで、おれの人生は悲劇だと思っていた。でも気づいた。喜劇だったんだと」。そうです。この映画自体が、笑うしかないほどヒドイ、あるいはヒドイのに笑えてくる、こちらの感情を混濁させてきます。

 具体的には、ピエロ業の同僚がやってきて、ヒドイことになる場面ですね。背筋が凍るほど恐ろしいのに、なぜかおかしい。「わーっ!」って言うところは、正直劇場からも笑いが漏れていましたし、私も笑ってしまいました。

 誰か、彼の声を聴いてあげられなかったのか。彼に手を差し伸べて挙げられなかったのか。環境が犯罪者を生み出してしまう社会の構造に問題提起もします。

 でも、「お前には関係ない」と、「弱者のヒーロー」に祭り上げることを拒否するラスト。倫理的にもバランスのとれた1作です。お見事!

 アーサー/ジョーカー役のホアキン・フェニックス。すごかったですね。

 ヒース・レジャーのジョーカーが、完全に正体不明、何を考えているかも分からなかったのに対して、ホアキン・フェニックスのアーサーは、自分の周囲を取り巻く環境の余りの過酷さに、心が破壊されていく役を見事に演じ切っていました。笑い方が毎回微妙に違っていて、その時のアーサーの感情を表す「笑い声」が印象的でした。ほぼ全シーンに登場するので、

 それから、意外な役回りで登場するロバート・デ・ニーロ。「キング・オブ・コメディ」の逆パターンですかね。彼が言うことは正論なのですが、アーサーとは全くかみ合わないあの感じ、見事でした。登場シーンは多くはなかったのですが、さすがの存在感でした。

 また、アーサーのご近所さん、ザジー・ビーツ。『デッドプール2』では運を味方に付けたヒロイン役でしたが、本作では、アーサーの心の支えになっていく役です。でも、実は、本当に何を考えているのかは分からないんですよね。

 全銀河、全宇宙のスケールに広がった『アベンジャーズ』シリーズに対し、1人の男の心の奥底に徹底して向き合う『ジョーカー』。アメコミ映画の幅の広さを感じます。

 ジャレッド・レトに相性がいいヒーロー映画が見つかりますように……。

p.s.トーマス・ウェイン役の人、前にも何かの映画で見たことがある気がするのですが……ご存知の方がいたら教えてください!
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