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ダマスカスのBaadのレビュー・感想・評価

ダマスカス(2018年製作の映画)
4.0
本当に久しぶりに見たイランの戦争映画。といっても、この映画で二本目。でもって、航空パニックハイジャック物は二本目です。
一本目はそれぞれ違う映画でしたが、どちらもコメディーだったはず。でもこの映画はわりとシリアスな戦争映画ですね。

2011年の設定ですが、この映画ではいまと違って当時のISはテロ組織というより、原理主義的なイスラムの教えで人を集めている地方軍閥のような存在だったのですね。重要人物の名前が実名で出てくるのが意外でした。

同盟国としてダマスカスに赴任しているイラン人の数人のパイロットがパルミラからダマスカスまで輸送船を飛ばすため救援に向かうのですが、途中で乗っ取られ、大変なことに。

話の筋としては普通の航空パニックなんですが、IS相手に戦っているといっても同盟国はシリア政府とロシア、ということで、別のサイドからシリアでの紛争のありようを見ることになります。
その辺の力関係のありようが面白かった。

プロパガンダ色も若干入っていて、処刑場面でイラン人のパイロットが明らかにシーア派であると分かる祈りを唱えているのには違和感。まるでカトリックじゃんとおもいました。あと、キリスト教徒の登場人物がロザリオを目に付くようにもっていたり・・・この辺は物語をわかりやすくする工夫でしょうが、普通はその辺はかくして持っていたり、スンニ派と共通の祈りを唱えたりするだろうに、とおもいました。誰だって命は惜しいでしょう?それ以外の場面での登場人物の心理描写がおおむね自然だっただけにちょっと気になりました。

あと、ISの登場人物がやたら死にたがるのも奇妙な感じがしました。で、これだけ変な集団なのに人が集まってきていたのは友好国だから批判的には描かれていないシリア政府にもなんかあったらんだろうとおもうのですが、それには終始ふれずじまいでしたね。IS側についている族長の描写が見事でその辺で事情は分かるのではないでしょうか。
にしても、シリアって民族的、宗教的には複雑な国なんだろうな、というのがこの映画からも見て取れました。
なくなったシリア人パイロットの娘はキリスト教徒。輸送される捕虜は大勢いるのに全員がISではなかったので、ほかの反政府勢力もあったのでしょうか?イスラム教でもいろんな派があって、ISの敵はまずは違う宗派のイスラム教徒なんですね。

であとでみると最初の場面が重要でした。
枠の部分は美しく映像で語っていて、その辺が救いのない物語の唯一の救いだったかもしれません。

とにかく、自国が属していない陣営の映画っていうのは必ずハッとする、百聞は一見に如かずの場面があるのですが、この映画もそういう点では優れています。

スコアが高いのは映画として面白かったから、というより情報的に面白かったからなので、その点はご注意を。

( 粗削りだが目を離せなかった 2019/5/3記)
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