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母を亡くした時、 僕は遺骨を食べたいと思った。のdm10foreverのレビュー・感想・評価

4.1
【母子手帳】

「やっぱりこれって実話だったんだ・・」
特に予習もせずに鑑賞したため、作品の背景などもわからず、でも妙に気になったので鑑賞直後にググってみた。

これって実際にそういう経験をした人だからこそっていう表現が結構あって、それがピンポイントで刺さった人は号泣してしまうかも・・・。

僕が母を亡くしたのは30歳ちょっとの頃。
多分、この頃って一番敏感だと思うよ、「親の死」って。
ようやく結婚もして世間的には「大人の仲間入り」って見られてるけど、それでもやっぱりついこの前までは親の庇護を全面に受けて生活させてもらっていたわけで・・。
勿論自分でお金も稼いでいたし、好きなこともやってた。
でもそれは自分が「家族のパーツの一つ」に過ぎなかったから(ネガティブな発想じゃないよ)。
やっぱりこの家に親が居るからって思えたからこそ、羽目を外して思いっきり遊んでたし・・・今となって思えばね。
で、そんな僕も30歳になった年、結婚した。

実はうちは離婚家庭なんで母親とは小学3年生から離れて暮らしてたこともあって、普通の親子関係とは若干違う時間を過ごしたのね。高校生くらいになってからは自分の意志で会いに行ったりもしてたから全くの断絶ってわでもなく、割と頻繁に連絡も取ってたけどね。でも戸籍上はやっぱりちょっぴり複雑でもあり・・・。
だからってこともあるのかもしれないけど、母が病気になってから亡くなるまでのわずか3か月、ひたすら病院に通いつめて色んな話をした。どんなにしてもしきれないくらいの感謝と、どんなにしてもしきれないくらいの後悔と。

でね、ひとつ気になっていたことがあって。
実は自分の母子手帳を見たことがなくて、何気なく聞いてみた。
そしたら・・・お母さんが持ってた。離婚してバラバラに暮らすことになった時、どさくさの中で自分の荷物の中に入ってたらしい。で、渡そうか捨てようかって迷ったらしい。
でも・・・捨てられなかったって。客観的に聞けばね「当たり前じゃん、そんな大事なもの」って言われるのはわかってる。
でもね、あの時は本当に母自身が追い詰められていたし、一瞬の判断でどんな選択をしても責められないなとも思ってたから。だから「やっぱり捨てられなかった」っていう母の気持ちが嬉しかった。

母が亡くなって一人暮らしをしていた母の家で遺品を整理していたら、キチンと大切に僕の母子手帳がしまってあった。
それを見て号泣したのを思い出した。

この映画は、お母さんの闘病生活にスポットを当てるのではなく、大切な家族に死が訪れる時、本人は、そして周りの家族はそれをどうやって受け入れていくかというお話。
だから、闘病中のお母さんの描写(演技)を期待しているとしたら若干肩透かしに感じるかもしれない。それくらい、ある意味では「淡々と」進みます。
なんだけど、その「行間」に込められた気持ちとか言葉ってのがとてもリアルで、経験者の目で見てとても良く作られていたと思います。

「死を受け入れる準備をしている本人」と「ちょっとでもそれを認めたら本当にそうなっちゃうんだからそんなことを考えちゃダメだ!という息子」

どちらの気持ちもわかるんです。現実的に医者から「かなり深刻な状況」と言われたら、諦めるかどうかとはまた違った頭で「人生の終え方」を意識しても決して間違いではないと思うんです。それは自分自身のケジメでもあり、遺される人たちへの優しさでもあり。
だけど、家族は認められないんですよね。1%でも可能性があるなら頑張ろうよ!生きようよ!と。明日も明後日も笑って暮らそうよと。

「頑張ってる人に頑張れって言われても辛いんよ。私だってホントは生きたいんよ。」

さっさん(安田顕)は信じていた。お母さんは癌すらも克服すると。何の自信も根拠もないけど、何故かお母さんは死なないと本気で思ってた。だから「頑張れ」って言い続けた。
でもそれはお母さんの気持ちに本当に寄り添ってあげられているのだろうか?

「さっさんはズルいよ」

恋人のマリちゃん(松下奈緒)にズバリと指摘された言葉に一瞬ドキッとした。あの頃の自分に言われたような気がしたから。

どこかで心が張り詰めていた母を追い詰めていたんじゃないだろうか。
なんかそういう「行間」に込められた色んなものがいい感じで滲み出てる映画でしたね。

お兄ちゃん(村上淳)やお父さん(石橋蓮司)の絶妙な「情けない感」が良かった。あの家族はお母さんが太陽でその他の男性陣はみな惑星なのだ。常にお母さんという存在が中心にいるからみんなが繋がっているんだ。
そしてそれはお母さんが死んだからと言っても何も変わらない。お母さんを中心に今後もこの家族は繋がっていく。
男三人が泣きながら素っ裸になって海で泳ぐシーンには、そういう優しさを感じました。

お母さんがいよいよって時になって、思いっきりありったけの感謝を伝えたいんだけど、出てくる言葉は「お袋・・・愛しちょるよ・・・愛しちょるよ」
でも心の中では(ごめんね)(ありがとう)(さようなら)(僕も死んだらまた会いたいです)(あなたの子で良かったです)・・・一杯一杯語りかけてる。ホントにそうなんです。不思議なんですけど、言葉なんて出てこなくて、頭の中で必死に色んな事呟いちゃう・・・。

あと、携帯のメモリーからお母さんの番号が消せないとか・・・細かいところにちょいちょい共感しちゃって。
因みに僕は15年近く経ってますがメモリには今でも残ってます。
掛かってきたら怖いけど(笑)

安田顕が出ているって時点で、ものすごい変態な一面を期待してしまいがちですが、実は安田顕の本当の魅力は、こういう「普通の人間が誰しも持つ変態性」の表現の絶妙さなんですね。かといって普通の人は理性があるから表には決して出さないんだけど、でも実はみんな持ってるんです。あ~いうちょっぴり気持ち悪い部分って。
で、その出し方がね~上手いんです。地味だけど凄い存在感がある不思議な俳優ですよね。
同郷として大泉洋と同じくらい期待してます。
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