真田ピロシキ

守護教師の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

守護教師(2018年製作の映画)
3.4
マブリー映画だぜヤッホー。てな気持ちで見始めたのに思いの他、話が重い。マブリーしてる時なんて女子校に珍獣然と混ざっている姿やUFOキャッチャーやってるとこくらいしかない。

元ボクシング東洋チャンピオンである主人公ギチョルは八百長に反発してボクシング協会の副会長を殴ってしまいコーチの職を追われ妹の斡旋で地方の女子校に体育教師として赴任する。この時点でギチョルは正しい事をしたのにも関わらず進退窮まっている。しかも学校から望まれているのはどちらかと言うと学生から未納の学費や給食費を取り立てる事で、そういう仕事をさせるために強面を買われて採用されたのではと思えてくるし、ギチョルの方も「昔カード会社で債務回収してました」とアピールしなくてはいけないのが苦い。

そんな現実にKOされかかっているギチョルが失踪した友達のスヨンを探しているユジンを通じて熱い自分を取り戻していくのがマブリー映画の王道だろうか。最初の八百長の時には「子供たちは腹を空かせて頑張っているのに大人はヤラセを?」と言っていたのに町全体を覆う事勿れ主義の空気に浸ってる間にギチョルも穏便に済ませようとなってて「子供には分からないだろうが」と今度は子供を諦めさせる言い訳に使うようになってた。そんなギチョルに対して例えそれで卒業出来なくなったとしても悪い事は悪いのだと毅然とした態度を取ろうとするユジンが与えた影響は大きいだろう。惜しむべくはこの直後に解雇通告が出るのでその後のギチョルの行動が失うものがなくなったから出来たようにも見えてしまう事。そこは安定した職がありながら怒りのマブリーさせた方が熱かったと思う。

町全体が腐敗したサスペンスであるので、その黒幕は予想のつく人物かと思う。あの変態教師の素性も想像がついたが卑劣な性格とキモさはなかなか極まってて映画を引き締めている。ギチョルは自分の拳が兇器である事を自覚してか、あれだけの事をやっても比較的軽くボコボコにするに留まっている。キャラクターとしては正しいけれどカタルシスはちょっと薄いね。その前にヤクザ相手に痛快に殴り合いしてるだけに。黒幕のアイツも思いっきり殴ったら死んでしまいそうなので直接は殴らないのだけれど、その分窓に叩き込んだ鉄拳が怒りの大きさを雄弁に語ってくれていて良かった。変態教師の家に突入する時もドアをどっちが悪役かと思うくらい豪快にぶち破ってくれていて、本作では人間以上にドアや窓がマブリーの引き立て役として活躍してくれている。

それでこの事件は無事終わりを迎えるのだけれど、結局ギチョルは町を晴れやかな気持ちとは言え正しい事をしていながら後にするので、この町は他所者を追い出して元の木阿弥へ戻ろうとしているように感じられる。学校なんてその最たるものと思えて、やはり物語上解雇はさせない方が良かったんじゃないかな。ユジンやギチョルの教え子でまともな警官のドンスのような人達が変えていくのだと示唆されているかもしれないが、最後まで若干の苦さを感じさせる映画だった。