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蜜蜂と遠雷のRAYのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
4.0
素晴らしい映画でした。
出来れば劇場公開中に観たかったけれど、十分にその素晴らしさを感じる事が出来ました。

僕がこの映画を観たいと思った一番の理由は、原作が恩田陸さんのものであると言うことです。
僕は元々、小説を読んだりする事が好きなのですが、その中でも彼女の作品が好きです。
それでも、どう言う訳か『蜜蜂と遠雷』は読んでおらず、映画が先になってしまいました。
原作も早く読まなければとあらためて思っているところです。


映画の内容についてですが、こんなにも生命力を感じる作品に仕上がっているとは思いもよりませんでした。
と言うのも、恩田陸作品と言うのは、その独特の世界観から、この作品に限らず、映像化すると言うのは非常に難しいのではないかと感じていて、この作品に対しても評判を聞いていても、多少の不安を感じていました。
しかし、そんな不安は映画が始まった瞬間から吹き飛んでしまいました。

『蜜蜂と遠雷』

とても意味深であり、難解に思えるこのタイトルは、この映画を観れば説明が無くとも理解出来ると思えました。
少なくとも、この映画はピアノの上手な人達のコンクールに挑む苦悩や喜びだとかだけを描いた作品では無いと言うことをよく伝えてくれていると思います。

当然、この映画を支えたのは松岡茉優さんをはじめとした俳優陣です。
森崎ウィンさんも鈴鹿央士さんも松坂桃李さんも、それぞれの思いや想いが溢れ出る様な素晴らしい演技だったと思います。


“音楽”を題材にした作品で思う事があります。
たとえば、この作品の場合、何名かのピアノの音色を聴くことになります。
しかしながら、僕はピアノを習っていたこともないし、正直言って、それぞれのピアノの音の違いはよく分かりません。
それでも、「素晴らしい」と感じるのです。
他の作品で言えば、アニメですが、『ピアノの森』のピアノの音色に鳥肌が立ってしまうことであったり(これは漫画の方がおすすめなのですが)、映画『BECK』において、主人公の歌声は“無音”になるのに、何故か美しさを感じる事が出来ることであったり。
別に“専門家”でもなんでも無いのに、不思議と「素晴らしい」と分かってしまう。
これは、音楽が想像するものであり、創造するものであるからなのだと、この『蜂蜜と遠雷』を観てあらためて感じました。
それはつまり、生きることであるのだろうし、生きようとすることでもあるのだと思うのです。


閉塞感に満ちた“今”であっても、僕等はきっと、想像することも、創造することも出来る。
その人にしか奏でることの出来ない音を、今だからこそ、見つめてみる機会なのかもしれないと思います。


本当に素晴らしい作品です。
観て良かった。
RAY

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