サマセット7

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のサマセット7のレビュー・感想・評価

4.1
監督・脚本は「LOOPER/ルーパー」「スターウォーズ/最後のジェダイ」のライアン・ジョンソン。
主演は「007カジノロワイヤル」「ドラゴンタトゥーの女」のダニエル・クレイグ。

[あらすじ]
推理小説家にして富豪のハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)は、85歳の誕生日パーティーの翌朝、自宅の館で喉を刃で裂かれて死んでいるのを発見される。
自殺と思われたが、匿名の依頼で呼ばれた私立探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が関係者の聞き込みを続けるうち、スロンビー一族の不穏な家族関係が明らかになる。
ブランは他殺を疑い、スロンビー一族のお抱え看護師であるマルタ(アナ・デ・アルマス)をワトソン役に指名して捜査を続けるが…。

[情報]
スターウォーズエピソード8の監督としてシリーズファンを阿鼻叫喚に陥れたライアン・ジョンソンが、大作の箸休め的に取り組んだ、2019年公開のミステリー映画。

豪勢なお屋敷を舞台に、不審な多数の登場人物を相手に、名探偵が謎を解決すべく奔走する、という非常にクラシックなフーダニット・ミステリーの枠組みでスタートする。
ライアン・ジョンソンも、「地中海殺人事件」などのクリスティ作品の映画化作品群をはじめ、古今のミステリー映画を参照した旨を明言している。
過去作の多くが小説の映像化であったのに対して、今作はオリジナル作品である点に特徴がある。
まあ今作はフーダニット・ミステリーというジャンル作品の持つ固定観念を逆手に取ったような構造をしており、新規性がある。

今作のキャストは極めて豪華である。
過去のオールスターキャストのミステリー映画(そして誰もいなくなった、や、オリエント急行殺人事件のような)の趣きがある。
探偵役は007シリーズのジェームズ・ボンド役で著名なダニエル・クレイグ。
実質的な主役に、「 ブレードランナー2049」のアナ・デ・アルマス(007シリーズでダニエル・クレイグとも共演した)。
被害者の老人にサウンドオブミュージックのクリストファー・プラマー。
ハロウィンシリーズで高名で、エブエブでのオスカー受賞が記憶に新しいジェイミー・リー・カーティス。
MCUにてキャプテンアメリカ役を務めたクリス・エヴァンス。
シェイプオブウォーターのマイケル・シャノン。
シックス・センスやヘレディタリー継承のトニ・コレット。
などなど。
とんでもない面子である。

今作は4千万ドルの製作費で作られ、世界で3億ドルを超える興収を上げる、特大ヒットとなった。
批評家、一般層共に、この手のジャンル映画としては異例の、極めて広い支持を得ている。
アカデミー賞脚本賞ノミネート。

[見どころ]
全編を貫く、独特のユーモアセンス!!
マンガ的とすら思える、強烈なキャラクター陣!!
特に女性陣は濃すぎる!!!
お屋敷ミステリーの定石を踏まえつつ、先を予想させない、小気味いいストーリー!!!
ミステリー好きをニヤリとさせる仕掛け!!
移民問題や格差問題、金にまつわる人間の本性にも触れる社会批評性!
そしてダニエル・クレイグの新たな名探偵!
これは続編が見たい!!

[感想]
面白い!!

クラシックなミステリーのお約束を踏まえた本格的な推理ものでありながら、これを邪魔しない塩梅でコミカルな描写やサスペンス要素を織り交ぜる、絶妙なバランス感覚!!!
ライアン・ジョンソンの本領は、こうした過去作をオマージュしたオリジナル作品にあるのだろう。
今にして思えば、多数の観客の期待を裏切ったスターウォーズep8にも、「らしい」光る部分はあった。

冒頭から"テンポ良く"殺人が起こり、早速容疑者たちの事情聴取と事件当夜の回想が始まるあたり、ニヤリとさせられる。
いいね!いいね!どいつもこいつも、キャラが濃い上に怪しい奴ばかりだ!!

そして、待ってましたとばかりに、探偵役ブノワ・ブラン登場!!
ポワロやコロンボを思わせる、どこかとぼけた味わい!!
オーバーな振る舞い!!
「乗ってるところすみませんが…」と何度も警部に水を刺されるユルイ感じ!!
ユーモラス!!!
ダニエル・クレイグはどうしてもジェームズ・ボンドのイメージが先行するが、今作では食わせ者の私立探偵を演じて芸域の広さを魅せてくれる。

今作の実質的な主人公であるマルタも、非常に魅力的だ。
ひょっとすると、今作の魅力の大部分は彼女の魅力によっているかもしれない。
演じるアナ・デ・アルマスの可憐さ!!!
リアリティラインぎりぎりの唖然とする特質!!
それも込みで、応援したくなるキャラクター造形!!!

そんなこんなで楽しく観ていると不意に訪れる、ミステリードラマファンならニンマリすること確実なある展開!!
これは面白い!!
ライアン・ジョンソン、やるなあ、と思わされた。

総じて、様々な工夫を凝らして、推理ドラマを見飽きないエンターテインメントに仕上げている。
秀作!だ。

[テーマ考]
今作は、一貫して富豪ハーランの財産に群がる親族たちの醜い姿をバリエーション豊かにユーモアを交えつつ描いており、資本主義下の強欲の愚劣さをテーマにしているように見える。
スロンビー家の者たちは、政治的信念も、年齢も性別もバラバラだが、金に対する欲にどっぷり浸かっている点で、何も変わらない。

一方、今作の実質的な主人公であるマルタは、移民の子であり、家長ハーラン以外のスロンビー家の面々からは明らかに見下されている。
しかし、彼女は、誰よりも心優しく誠実である。
その姿はどこまでも爽やかで、欲に塗れた他のキャラクターたちと好対照となっている。

今作が、古今のミステリー映画やドラマのオマージュに溢れている点は言うまでもない。
作中でも様々なカルチャーへの言及や引用がある。
テーマ云々以前に、クラシックなミステリーというジャンルを、現代的に復興させてみたい、というライアン・ジョンソンの意欲が感じられ、好ましい。

[まとめ]
クラシックな探偵ものを題材に、現代的な味付けをしてみせた、ミステリー好き垂涎の秀作。

続編は昨年、Netflixで独占配信された。
これは観たいなあ。
いよいよネトフリ再契約待ったなしか。