サマセット7

ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇りのサマセット7のレビュー・感想・評価

4.0
監督・脚本は「ゲームナイト」のジョナサン・ゴールドステインとジョン・フランシス・デイリーのコンビ。
主演は「スタートレック」「ワンダーウーマン」のクリス・パイン。

[あらすじ]
剣と魔法の世界、フェイルーン大陸にて、盗賊エドガン(クリス・パイン)と戦士ホルガ(ミシェル・ロドリゲス)は、秘宝を盗もうとして仲間の裏切りに遭い、窃盗の罪で大監獄に2年間収監されてしまう。
なんとか脱獄した二人は、エドガンの一人娘キーラを訪ねるが、キーラを育てていたのは、裏切り者の詐欺師フォージ(ヒュー・グラント)その人であった!
強力な魔女ソフィーナと共謀して領主を僭称していたフォージの企みで、殺されそうになった2人は、辛くも城を脱出する。
2人はフォージに奪われていた秘宝と娘キーラを取り戻すべく、魔法使いサイモンやドルイドのドリックとパーティーを結成して、危険な冒険に挑む…!!

[情報]
今作は、テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(以下TRPG)の元祖と言われる「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下D&D)を原作とする作品である。

TRPGとは、ボードゲームの派生のようなゲームで、ゲームマスターと複数のプレイヤーの会話によって会話劇のようにゲームが進行する点、プレイヤーの主要な行動の成否がダイスなどで決定される点、プレイヤーがキャラクターを演じる点などに特徴がある。
D&D以外にも、トンネルズ&トロールズ、GURPS、クトゥルフ神話TRPG、ソードワールドRPGなど様々な種類がある。
日本では、著名なファンタジー・ライトノベルである「ロードス島戦記」が、元は著者の水野良がゲームマスターを務めたTRPGのゲームプレイを元にしていることで知られる。
現在は日本ではクトゥルフ神話TRPGが隆盛で、ニコニコ動画などでプレイ動画が多数投稿されているようである。

D&Dはアメリカで1974年頃製作販売された最初期のTRPGとして知られる。
指輪物語や英雄コナン、エルリックサーガなどの当時流行した剣と魔法のファンタジー世界に「なりきって」遊ぶために開発された、と思われる。
当時はウィザードリィなどの最初期のコンピュータRPGすらなく、今のようにオープンワールドの細密なRPGや、多人数参加型のオンラインRPGなどカケラも存在しなかった時代であった。
ウィザードリィやドラゴンクエストなどのコンピュータRPG作品を経由した、現在の「剣と魔法のファンタジー」のイメージは、D&Dが形成したと言われる。
タイトル通り、迷宮の探索とドラゴンをはじめとするモンスターとの戦闘にゲームの重点が置かれている。
人間、エルフ、ドワーフなどの「種族」、戦士、盗賊、魔法使い、僧侶といった「職業」、力、敏捷、耐久性などの「能力値」、善悪、混沌秩序といった「属性」などを組み合わせて、多様なキャラクターの創造が可能、というあたりもD&Dが元祖であろう。
これらの特徴はウィザードリィなどのコンピュータRPGに色濃く受け継がれている。

今作は、D&D公式が採用している背景世界の一つ「フォーゴトン・レルム」を舞台にしているようだ。
キャラクター造形やモンスター、魔法なども、全て原作ゲームや背景世界設定に準拠していると思われる。

D&Dを映画にしようという試みは、まず2000年公開の邦題「ダンジョンアンドドラゴン」で形になった。
しかし2000年の作品は恐ろしい勢いでコケた、らしい。批評サイトrotten tomatoesでは、批評家支持率10%、一般支持率19%という屍を晒している。
にもかかわらず、この作品はシリーズ化され、ビデオスルーで何作か作られたようだ。
D&D映画化に関する、好事家の執念のようなものが感じられる。

今作はD&D旧映画シリーズのリブート、仕切り直しである。
製作の紆余曲折や公開延期などもあったようだが、最終的に、パラマウントピクチャー製作で2023年3月31日公開に至った。

本日で日米での公開開始から五日が経過している。
現時点で批評家、一般層共に非常に高い評価を得ているようである。

[見どころ]
ドラクエやウィザードリィで想像するところの「剣と魔法のファンタジー」の世界がこれ以上なく満喫できる!!!
戦士!盗賊!魔法使い!!変身能力者!!!
モンスター!ドラゴン!!迷宮!!宝箱!!
映画でもって、TRPG原作の風味を自然に体感できる!!
落ちこぼれアウトローたちの再起物語としても良くできている!!

[感想]
大満足!!

TRPG原作ということで、原作を知らなくとも、独自のこだわりが多数見て取れる。
まずは、戦士、盗賊、魔法使い、ドルイドの各職業が、自分の特技を活かして、役割分担をして冒険を進めて行く点。
各キャラクターに職業に応じた独自の役割と見せ場があるあたり、各キャラクターをそれぞれ生身の人間が「演じる」TRPGっぽい。1人でもやることがないようなら、ゲームとして成立しないわけだ。
特に盗賊は、主人公であるにも関わらず、戦闘ではほとんど役に立たず、主に弁舌で仲間たちと物語を引っ張る役割を果たしている。
弁舌で物語を進めるのは、まさにTRPGの醍醐味であろう。
なお、探索に特化した盗賊が、戦闘で役に立たないのは、ウィザードリィなどでも見られるこの手のファンタジーのお約束だ。

ダンジョン(迷宮)、地形、地図などの造形がゲームっぽく、独特である点。
おそらくは原作の背景世界や、原作ゲームのダンジョンマップに準拠しているのだと推測される。

キャラクターの性格が、善悪や秩序混沌といった「属性」を彷彿とさせる点。
特に盗賊エドガンと、聖騎士ゼンクの対比に顕著だ。

今作のシナリオは、Aに行くためにはBというアイテムが必要で、その入手のヒントを得るためにはCに行く必要がある、といった、RPGでよくある物語構造になっている。
普通の映画ならこういうストーリー展開は白けるのだが、今作ではゲーム的な味になるのが面白い。

これらのTRPG原作への目配せは、自然に作品に溶け込んでおり、今作の面白みになっている。

他方で、アクション・ファンタジー映画としての骨格も、予想以上に良くできていた。
モンスターや魔法のCG映像にチャチな感じはないし、剣や斧を振り回すアクションもかなりちゃんとしている。
特に女戦士ホルゴを演じるミシェル・ロドリゲスの1対多数の戦闘アクションは、プロレスのように力強く、印象的だった。
ドルイドであるドラックの変身アクションも楽しい。

全体に軽い調子でコミカルにポンポン話が進むので、飽きることはないし、不用にウェットになることもない。
気楽に見られるのも印象がいい。

総じて、剣と魔法のファンタジーに求めるものが過不足なく組み込まれ、さらにTRPGの良さも再現している、という、なかなか大変なことをやっている作品となっていると思う。
ゲーム原作のファンタジー作品としては、決定版と言っていいのではなかろうか。

[テーマ考]
今作は、社会の落ちこぼれたちが、失敗の連続にもめげることなく、挑戦し続けることの素晴らしさを謳った作品である。

エドガン、ホルガ、サイモン、ドリックは、それぞれの理由でなりたかった自分になれなかった者たちである。
各キャラクターの落ちぶれたエピソードがそこそこの尺を使って語られるのは、このテーマの表現のためと考えるとわかりやすい。
彼らが挑戦し、失敗し、諦めかけた時、エドガンがかける言葉!!!
これぞ、今作のテーマであろう。
私は、不覚にも感動してしまった。
名シーンである。

無論、映画作品の中で、TRPG原作の良さを再現したい、という作り手の意欲もまた、作品のテーマと言えるだろう。

[まとめ]
D&DというTRPG原作の面白さを詰め込みつつ、「剣と魔法のファンタジー」の作品としてもしっかり面白い、稀有な快作。

敵役の詐欺師フォージもとても良かった。
あのヒュー・グラントの微笑みがここまで胡散臭く思えるとは!!!