りっく

惡の華のりっくのレビュー・感想・評価

惡の華(2019年製作の映画)
4.3
思春期のあのグジュグジュと化膿した日常の暗澹たる想いにとっくに蓋をしていたのに、そんなかさぶたを本作は剥がし、ドロドロと身体の外に流れ出るような感覚に陥る。その想いはボードレールの惡の華に象徴されるが、誰もが心の中にその種を植え付け、華を咲かせてしまった経験があるのではないか。

山に囲まれた街の向こう側に行きたい。人と違った道を歩みたい。本当の自分をさらけ出したい。権力を振りかざす者たちに歯向かいたい。セックスをして大人になりたい。だが、どんなに現状を打破しようともがいても、世界の見え方は変わらない。どこに行っても行き止まりで、逆戻りするしかない青春地獄。

そんな中で本作は、いまの若者たちの生きづらさを代弁し、また青春を輝かしいものだと捏造し、記憶を書き換え、陰の部分に蓋をしてきた大人たちにも向き合わなければならない過去に力づくで目を向けさせる。不本意ながらも自分の内側で向こう側へと迎合するしか、大人にはなれない。それは決して、物理的な距離や、肉体的な成熟や、通過儀礼といった分かりやすいものではない。だからこそ苦しんでしまう。

本作の主人公は玉城ティナに憧れ、どこまでも付いて行ってしまう。彼を試し、導き、覚醒させ、力づくで鼓舞する彼女は、クソムシだらけの掃き溜めのような世の中で、孤高のアウトローを極める。だからこそ、ひとり生き、そしてひとり死のうとした彼女が、この先生きていく居場所は果たしてあるのか。どんな生き方をしても苦しむであろう彼女の行く末を想い、涙してしまう。それほどのカリスマ性が、本作の玉城ティナにはある。見事としか言いようがない。
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