きゅうげん

キングスマン:ファースト・エージェントのきゅうげんのレビュー・感想・評価

3.5
第一次世界大戦の裏で暗躍する謎の組織と戦う公爵親子たちを描く、国際諜報機関キングスマンの誕生秘話。


ボーア戦争やサラエボ事件にツィンメルマン電報など、前日譚という史劇性に適った設定・舞台に主人公チームや悪の組織などが登場するマンガチックさは、まだ飲み込めます。
ただラスプーチン、マタ・ハリ、デュポンの相次ぐ死には「知ってる歴史と違う」違和感が先行してしまいますし、それに勢力均衡を理由にレーニンとヒトラーが邂逅するラストの無節操さとか、正体不明の黒幕の野望が「スコットランド分離独立」というオチだとか、なんかちょっと各方面から怒られそうな要素が多すぎるような。

あと単純に脚本がよくない。
ラスプーチン主催のパーティーへの潜入や、アメリカ参戦をめぐる情報戦など、各シークエンスの駆け引き感のなさが足を引っ張っていますし、スパイ疑惑で息子死亡とか黒幕はよく見かける副官でしたとか、起伏に1ミリもカタルシスがないのは大問題でしょう。
冒頭での奥様フリッジングから息子もフリッジング、そして使用人までフリッジング……未遂と、華々しい英国紳士の活躍というよりもオッサン好きのする演歌みたいな話に。
豪華客車で誕生会とか、女中とチューとか、“羊飼い”つってんのに飼ってんのはヤギとか、身代わりアーロン・テイラー=ジョンソンがしれっと創立メンバーとか、いろいろと何でやねん!

くわえて、マシュー・ヴォーン監督十八番のリズミカルなバトルは、平均年齢高めな所為もあってか段取り臭がより強く……。それでいて音ハメのために細かいスローモーション挟んだりして、逆に煩雑な印象。
とくにラスプーチン戦はチャイコフスキーのBGM利用もあって全然ノれず。ロシア人は怒っていいです。


裏世界史モノとしての勘どころを押さえきれていない惜しい感じ。『キングスマン』らしさも戦争映画らしさも十全に発揮できなかった残念さが残ります……。
てか、それにしても脇役たちが贅沢すぎない???