純

メモリーズ・オブ・サマーの純のレビュー・感想・評価

メモリーズ・オブ・サマー(2016年製作の映画)
4.3
血の匂いなんかしないのに、なんて生々しくて冷ややかな夏だろう。誰の、何のせいにしたらいい?子どものときからお馴染みの楽しい時間の過ごし方は、もう卒業しないといけないのかな。ぼくが悪いんだろうか。ぼくがもっと、大人にならなくちゃいけない夏だったんだろうか。

見たくないものは、見ないですむ子どもでいたかった。美しい緑と光だけを、その透きとおった瞳に映して夏を重ねていけたなら。夢のように素敵だったあの1日に、止まらない空中ブランコで出会い続けるためならば、ぼくは何だって頑張れる。大丈夫なふりもするよ。もう裏切られたなんて思わせないよ。ちゃんとひとりで遊べるよ。いい子にして、鍵をあなたに渡すことだって。

もう、こんなことまでしないと、ぼくは見てもらえない。ぼくが見たくないものから目をそらせたいのと同じで、ぼくも、誰かにとっての見たくないものなのかな。プールでいなくなったあの子、きっとあのときが生涯でいちばん視線を浴びていた。動いているときもちゃんと誰かに見てもらえたのか、気になってももう遅いだけ。けたたましい音が何も聞こえない。でも本当に何も聞こえなかったあの瞬間、あなたのうつむきがちな瞳が光を放って、ぼくを、間違いなくこのぼくを、たったひとり、見ていた。
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