真田ピロシキ

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.4
ピーター・ジャクソン監督による200人にも及ぶ退役軍人のインタビューと100時間の記録映像を編集した第一次世界大戦ドキュメンタリー。第一次世界大戦時なので元素材はモノクロだが本作はデジタルによる映像スピードの加工や着色を施し、兵士が話してる所では読唇術で読み取った台詞を付け加え効果音も足されていてドキュメンタリーの垣根をかなり飛び越える。

カラーにしたり色々やってるのは現代人に取ってリアリティのない遠い昔の出来事にするのではなく生きた人間の記録として蘇らせたいという思いから。第一次世界大戦のイメージといったら戦車や毒ガスが初めて出てきて塹壕戦ばかりやってた熾烈な戦争くらいのものだったが、本作では不潔で窮屈だが笑い話もある塹壕生活、轟音と共に地を揺るがす迫撃砲、毒ガスや足が壊死する冬の恐怖、遠慮なしに映される死体、休暇中の町での様子など色んな面が見えて来る。カメラがついてこれない敵陣への突撃も戦争絵と死体のモンタージュで表現されていて戦場の迫真性は保たれる。

ちょっと理解に悩むのはこういう処理をされてるのは前線だけであって、行く前の募兵及び訓練時や戦争終結後はオリジナルの映像を使われている点。戦場でない前後は古びた記録映像に留めたのは普通の若者だった彼らではなく兵士としての面ばかりを偶像化されたように感じた。男らしくあるために、或いは同調圧力で年齢を偽ってまで兵士になった人達及びさせた人達や、その結果として無意味と言った戦争のために帰国後疎まれる不条理は現代人に取って隣の仲間が吹き飛ばされるより理解しやすく、そこにも生の息吹を与えられて欲しかった。

これをドキュメンタリーとして100%肯定していいのかと言うと難しい所。ドキュメンタリー性の極めて高い劇映画と思った方が良いかもしれない。こういうギリギリの所を攻めるドキュメンタリーは好きなのでトンデモない根気がいるだろうが真似する人は歓迎したい。それと本作の手法はそろそろ生の声が難しくなっている第二次世界大戦を語り継ぐヒントとなり得てる点で意義深い。実の所そのプロトタイプとして作ったんじゃないかという気もしてる。