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普通は走り出すの8637のレビュー・感想・評価

普通は走り出す(2018年製作の映画)
4.5
3回目。
観ながら初めて、渡辺に対して「これは、僕だ」と感じた。
知識だけは肥えてるから、日頃からくだらない事について無駄にでかい声で話して相手を困らせて、映画は現状作れないけどただ威張って怒鳴り散らして、映画は現状作れないから諦めて、金もないのに観ることに徹しようとして、家ではゴロゴロしてたまに洗濯するだけで、周りよりも不器用で、何もできなくて、喚いて、逆ギレして、迷惑だけかけて、、、あと神頼みが長いところ。
自分でも直そう直そうと思っていた自分の負の部分をこんな形で突きつけられるとは。

だけど僕には言える。彼と僕の決定的な違いは"大人と子供"であり、自分はまだ何か保護されているから良いが、周りから変われ変われとせがまれているのにあのザマでは、彼は映画の革命すら起こせない。彼の醜態に、ついに私は変顔こいてしまった。

だけど彼は"映画監督"として市長とも渡り合える存在。


「危機」「無能」「炎上」...「新しい時代」。
映画に興味ないのに渡辺に付き合うイチゴ農家、過疎地に突然変異的に現れた「見えない圧力」を象徴する手紙、萩原みのりの超ちゃんとしてる感、フェチの対象を受ける松本まりか、そしてなかなか燃えない今泉力哉(笑)...

中でも「インタビュー」パートはマジで傑作。タイトルや答え方だけで性格が見えるが、それも登場人物の話なのか女優の本音かもわからずじまい。更に目も回るし、なかなか異物だし、手の届かない場所にいる演出である。

僕がほんとムージックラボ好きだなぁと思うのは、映画と現実の境界線を超える、その価値観を大切にする作品が揃っているから。だから好きでいる。
今作ではトリプルファイヤーの音楽を「感情爆発の場」として使っていたし、結果的には彼の生活に同情した感覚もあった。
全体的に俯瞰だが彼には何も見えていないし、自分を完璧だと思ってる。

あと感銘を受けた点は、自分の作品の中で過去の自分の作品を講評するシーンを入れた事。
未ソフト化のため「プールサイドマン」も「地球はお祭り騒ぎ」も観たことはないのだが噂は聞いているし、その絶賛評を自作で載せるなんて自慢気だしどんな形であれ禁じ手だと思っていたのだが、そこまでやってのける感じがすごい。

映画って、ただの見世物。
映画監督って、映画の中じゃ何でもできるからいいよな。
だけどそこまで苦労して映画を作っても、世界のなんの役にも立ってないじゃないか。そんなものに何の存在意義がある?
映画は、非映画好きからしたら「暇潰し」「空気」「考えた事もない」なんて言われてるぞ。どうする?
自分でもたまに考えている事だったから、自分も映画付きの一人として、渡辺と共に現実に突き刺された気がした。



追記:
思えば、この映画を機にトリプルファイヤーを聴きまくって、Spotifyの年間ランキングがそればかりになったなぁ。
何ならこの映画に憧れて、コロナ禍で自伝的な半モキュメント作品を撮って、結局完成しなかったなんて思い出もあった。語りかけるような独白と映画監督の味気ない日常を撮ろうとしたが、圧倒的人員不足で失敗してた。
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