ぐりこ

ジョジョ・ラビットのぐりこのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
3.6
臆病なナチ少年ジョジョの爽やかな初恋の物語であり、同時に胸に刺さる反戦映画でもあった。全編英語だしアメリカンなノリでユーモラスに描いているけれど、実は結構ハード。
荒木飛呂彦作品とは関係ない。

舞台は、第二次世界大戦下のドイツ。心優しい10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、空想上の友だちのアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ=監督)の助けを借りながら、青少年団体で立派な兵士になるべく奮闘していた。しかし、訓練でウサギを殺すことができなかった心優しいジョジョは、教官から“ジョジョ・ラビット”という不名誉なあだ名をつけられ、周囲からいじめられてしまう。
そんなある日、母親(スカーレット・ヨハンソン)とふたり暮らしのジョジョは、屋根裏の隠し部屋に少女エルザ(トーマサイン・マッケンジー)が匿われていることに気付く。ユダヤ人だと名乗る年上の少女はジョジョよりも賢く強かった。ユダヤ人の弱点を探るべく研究を始めるジョジョだったが、次第に少女に惹かれていく…。
その出会いはジョジョにとっての初恋であり、ヒトラーの選民思想ナチズムと向き合うきっかけともなった。ときに自ら考え、ときに空想上のアドルフに影響され、揺らぎながらエルザとの関係を築いていくジョジョの姿にはとても共感できた。
連合軍の進駐と少し戯画的にも思える戦闘を終えて、ジョジョとエルザが迎えたエンディングはとても素敵でそれでいてちょうどよくて感動した。戦争孤児となる2人の未来は困難であれ明るいものであってほしい。

さて、この映画、主役であるジョジョとキーパーソンエルザが育む絆も実に爽やかで美しかったが、助演陣の活躍が見事だったと思う。
圧倒的な存在感を放っていたのは反体制の運動家であるジョジョの母を演じたスカーレット・ヨハンソン。不在の父(果たして生きているのだろうか)にも成り代わり、ときに厳しくジョジョを導き、またエルザをも守る母は強く、その愛は深かった。対ナチズムという点で、毅然として主義を貫く母の姿は痛快だっただけに、彼女が迎える辛い運命は胸に刺さった。厳しい。
もう一人、存在感を見せたのはユースの隊長キャプテンK(サム・ロックウェル)。ゲシュタポ(滑稽なのに怖い)の捜査に対するエルザのとっさの嘘を見抜き、さらにそれを守ったり、最後の戦闘後にジョジョの軍服をはぎ取って「このユダヤ野郎!失せろ」と罵って助けるなど、圧倒的にかっこよかった。

なお、スカヨハはアカデミー助演女優賞にノミネートされた。大納得。


(雑感)
・「腹の中で蝶が羽ばたく」って何年か前に売れた『翻訳できない世界の言葉』でも見かけたフランスやスペインで使われる恋の始まりのあの気持ちの表現、素敵。久しぶりに読みたくなった。
・スカヨハが粛清された広場の周りの家々、広場を見つめているかのような屋根だった。
・ヨーキー君が和む
・ビートルズの"I Want To Hold Your Hand"で幕を開けて、ボウイの"Heroes"がヤマ場で流れる。これがいずれもドイツ語版で、とても不思議な感覚。
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