ぎー

新聞記者のぎーのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
3.0
【藤井道人特集1作品目】
東京新聞、映画の中では東都新聞に加計学園に関する極秘情報がFAXで送られてくるところから映画は始まる。
結論から言ってしまうと、この映画は良くも悪くも真実とフィクションが混じっていて、それによって評価が大きく分かれる映画だと思う。
政治的な映画なので正直レビューすら書きずらい。
ただ、例えば極秘情報の表紙に羊のイラストが書かれていたところなどは、一体真実なのかフィクションなのか、どちらかなのか分からなかった。

東都新聞の一面が文部科学省役員を叩く記事になり、これを社員が嘆く場面も意外だった。
少なくとも東都新聞、東京新聞は、政府からの圧力とか気にしない新聞なような印象があるけど、内情は違うのかな。

文部科学省役人のバッシングネタは内閣情報調査室が仕組んだシナリオだった。
これが本当かどうかは知らないけど、少なくとも内閣情報調査室っていう組織について考える良い機会にはなったと思う。

映画を見ていた時に田中哲司演じる上司に、外務省時代の同僚から連絡とかないかって松坂桃李が聞かれて、ただの世間話かって思っちゃってたけど、映画見終えたらそういう意味だったのかって、ゾッとした。

伊藤詩織さん事件にフォーカスするのはどうなんだろうな。
伊藤詩織さんが野党と関係があるっていうチャート図を内閣情報調査室が作成したっていうストーリーだけど、これは本当かどうか分からないけど、もしやっていたとしたら内閣情報調査室は相当気持ち悪いし、相当アホ。
そんなチャート図見たら、明らかに伊藤詩織さんを貶めようとしてるってどんなアホでも分かると思う。
工作って分からないようにやるから意味があるのであって、この場合はあまりにも幼稚で、真実かどうかは置いといて、共感が全くできなかった。
(なのですごい客観的なドライな見方をすると、文部科学省役人に対する工作は意味があると思う。)
流石に日本人を馬鹿にしすぎ。
もちろん、事実だとしたら、伊藤詩織さんを馬鹿にしているとかそういう次元じゃないけど。
個人的には本筋とは関係ないこの件を入れてきたことに対する不快感が強かったかな。
伊藤詩織さんの事件が映画が醸成しようとしている政府不信の雰囲気のエサみたいに使われてる気がして。

外務省時代の上司からご飯に松坂桃李が誘われた時は、絶対に重要な話があるんだろうなって思ったし、話がなかった時は自殺フラグが凄いなって思った。
もし自分があのご飯をした松坂桃李君だったら、滅茶苦茶心配になる。

松坂桃李が大学新設絡みの案件から外されてた事を知った時の衝撃は想像に難くない。
信じて、自分を殺して仕事してきたのに、組織に手のひら返された時は、何のために仕事してたの、ってなるよね。

そして田中哲司演じる上司はかなりサイコパス。
感情、人間性殺して仕事するのは仕方ないところもあるかもしれないけど、仲の良かった先輩が自殺して悲しむ松坂桃李に、あのタイミングで子供の出産のことを言うのは、気が違ってる。

外務省時代の先輩のお通夜は酷かった。
確かにマスコミはああいう全く気を遣わないイメージがある。

と暗い感じの映画展開だったので、本田翼が無事出産した時はかなり安心した。
子供が産まれると人間性は大きく変わる。
だから松坂桃李にも変化が生じた。
これはすごい納得がいった。

滅茶苦茶意外だったのは、松坂桃李が人間性に変化があったとはいえ、初対面の新聞記者をかなり信じたこと。
松坂桃李はそういう仕事をしているのだから、記者の危なさはよく知ってるはず。
確かに今回の女性記者は正義感あふれる記者だったけど、結果論に過ぎない。
かなり危ない橋を渡ってるなぁと思った。

生物兵器の件は、多くの人が言っているように、かなり興醒めだった。
まあ、ある意味この要素がなければ政治的過ぎてレビューも難しい映画だったのが、この要素が入ったことではっきりとフィクションだと分かり、そういう映画だと捉えた上で感想を言いやすくはなったんだけど。
フィクションかどうか分からないって突っ込まれそうだけど、ざーっと調べた感じ、誰も生物兵器研究所設立のために獣医学部作ったって証明できてないよね。
映画の作り手の真意をやや測りかねる要素だったな。

きっとこの映画はもしかしたら『ペンタゴン・ペーパーズ』を目指したのかもしれない。
でも、まだタイミングが近すぎてあらゆる事が事実か虚構か判断できないっていう難しい現実、そしてこの生物兵器要素によって、大きく遠かったと思う。
もちろん、間違いなく、皆が臭いモノに蓋をしているところにスポットライトを当てた意欲作だとは思うけど。

最後の松坂桃李の気持ちは分からなくもないけど、分からない気もした。
子供を産み、慕っていた上司が自殺し、事実が捻じ曲げられていて、今の上司の人事権は圧倒的っていう条件は揃った上で、新聞記者に味方してリークするっていう決断をしたのに、今更悩むかな。
これをリークするっていう決断は生半可じゃないし、揺るがないものな気もしたけど、人間はそんなに強くないか。

賛否や評価が分かれそうな作品な気もするものの、まさに今の日本政府の権力、情報統制に焦点を当てた凄まじい意欲作なのは、やっぱり間違いない。
生物兵器の要素を除けば、描き方も日本では珍しい社会派サスペンスのようで面白かった。
松坂桃李の自分を押し殺した演技も素晴らしかったと思う。
このストーリーに対する評価はさておき、いつか真実が明らかになることを切に願う。
ぎー

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